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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

ぺたりぺたりと藁の先端に貼り付けて宙に浮かせたタロットカードを眺め、ふとこの行為になんの意味があるのだろうと考えた。
別に自身の力量に疑念を持ったわけではない。
占いの示す未来は絶対だ。
そしてそれは己の望みうる未来への道標でもある。
だからこそその絶対が明確になることを厭い、最も重要な要素である可能性の値、すなわちパーセンテージを導き出す過程を排除した今回のこの占いにいったいなんの意味があるのかと自分で自分に呆れを覚えざるをえなかった。
うまくいく可能性、うまくいかない可能性。
それから目をそらして現在とるべき最善の行動だけを占ったところでそんなもの気休めでしかないというのに。
しかもそうして占った結果がまたひどかった。
贈り物をする、デートに誘うなどの比較的普通であろう行動の成功確率が低いのに対し、なぜ抱きつくというわけのわからない行動の成功確率が高くなるのか。
アルバは男色家ではない。
男に抱きつかれて喜ぶなんてことはありえない。
そもそも成功とはなんだ。
なにをもって成功と判断しているんだこの占いは。
タロットを使った呪いの一環として恋占いも修めてはいるが、当然自身の恋愛について占ったことなど一度もないため理解が追いつかない。
静かな混乱を小さなため息と共に胸にしまい、馬鹿なことをしたとタロットを回収する。
だいたいアルバに対してざわざわと胸がさざめくあの感覚が恋愛であるという確証もないのだ。
自覚に至らないほどの僅かな嫌悪感という線だってなくはないのにそこを無視して恋占いなどという柄でもないことをするからあんなわけのわからない結果になってしまったのだろう。
そう自分を納得させてふと顔をあげるといつの間にやら近づいてきていたらしいアルバとばちりと目があった。
とたん胸に広がるざわざわと藁が擦れ合うような、むず痒い感覚。

「船長、さっきのってなに占ってたんです?」
「……些事だ。お前が知る必要はない」
「あー……いや、別に何もないならいいんですけど、なんか難しい顔してたんでちょっと気になって。もし何かあるなら話だけでも聞きますよ。気休めでもないよりマシってこともありますから」

アルバが笑う。
身体が動く。
それは衝動だった。
馬鹿げた結果を実行するつもりなどなかったのに、船長の占いハズレなしだからなァと自分を気にかけて苦笑するアルバに魔がさした。
先ほどの占い結果の成功が何を指すのかは知らないが成功は成功。
きっと悪いことにはならない。
他の誰でもないアルバが気休めでもと、ホーキンスの占いはハズレなしだと言うなら構わないだろうと。
そう魔がさして、行動に移した次の瞬間には後悔していた。
挨拶程度の軽いハグだ。
触れているのも服の上からであって皮膚同士の接触はない。
だというのにアルバとの距離がゼロになったと理解した途端心臓がばくばくと早鐘を打ちはじめた。
それはもはやさざめきどころではなく密着したアルバにも聞こえてしまっているのではないかと不安になるほどで。

「えっ、あの、船長?」
「……忘れろ」
「え、いや」
「忘れろ。いいな?」

ほんの一、二秒で限界を悟り身体を離すと突然の行動に困惑したアルバが説明を求めてきたが睨みつけて黙らせた。
大丈夫、何も問題はない。
表面上取り乱さず冷静を装えたことで最低限の矜恃は保たれたし、いまは疑問を抱いているアルバも少しばかり時間が経てばなにかしらの占いの結果必要な行動だったのだろうと勝手に納得して忘れるはず。
自分も忘れる。
こんなもの、こんな、忘れなければやっていられない。
成功どころか頭と心臓が茹だったような最悪の気分だが、別に。
別に、何も、問題はなかった。
なかったのだ。




「…………なんだったんだ、あれ」

去っていく後ろ姿ばかりはいつも通りで、しかしその表情を思い出すとそんなわけがないのは明白だった。
普段張り付いている無表情が崩れそうになるのを必死に堪えるよう引き結ばれた唇も、瞬く間に赤く染まった白い肌もいつも通りとは程遠い。
おまけにあのひと睨み。
薄らとだが潤んでいて、声だって微かに震えていて、あれでは脅すどころか煽っているだけではないか。

「船長、めっちゃいい匂いしたし……」

なんだったんだと再度呟きその場にしゃがみ込む。
あんなことをして忘れろなどと、そんなもの無理に決まっているだろうに。