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男を捕まえずに海賊ばかり捕まえていたせいで婚期を逃したと嘆く女海兵同士が五十を過ぎても独り身だったら諦めて一緒に暮らそうと協定を交わしているのを遠目に見て、これだ、と思った。

「なあサカズキ、五十になってもお互い良い相手がいなかったら結婚しようぜ!」
「………………暑さで脳が沸きよったか」
「ひでェ!」

突然のプロポーズに辛辣な言葉を返されショックでよろめき崩れ落ちるふりをしたら頭上から大きなため息が降ってきた。
馬鹿がまた馬鹿なことを言い出したとでも思っているのだろう。
普段からノリと勢いで生きているとこういう突飛な行動をとってもそういうキャラとして流してもらえるからありがたい。

「いやね、今日ちょっと人生の迷子がそういう話ししてるの聞いてさ。確かに一生独りで生きていくのは寂しいし、相手が見つからないならそういうのもありだなって思ったわけ」
「ありかなしかの前に言う相手がおかしいたァ思わんのか、おどれは」
「なんで?サカズキ出世頭だし優良物件じゃん。おれ弱っちいからそのうち手か足かなくして仕事続けらんなくなるだろうしさァ、そしたらサカズキが養ってくれよ」

へらりと笑ってヒモ志望宣言するとゴミ虫でも見るような目を向けられたがわりと本気だ。
おれはこのまま海兵続けていたらいつか絶対に死ぬと思うし、死ななかったとしたら今しがた言った通りになるだろう。
向いていないのだからさっさと辞めたほうがいいに決まっているのだがそこは恋する男の意地である。
生きるにしろ死ぬにしろぎりぎりまでサカズキと同じところに居られるといいな、なんておれが考えていることは当人どころか他の誰だって知りやしないに違いない。

「……金目当てなら他にもええのがおるじゃろうが」
「ボルサリーノとかクザンとか?あいつらお前と比べたらかろうじてまともだし、お前と比べたら独り身じゃなくなる可能性高いじゃん」

あくまでサカズキと比べた場合の話であって一般的に考えれば自己中の塊みたいなやつらにそうそう添い遂げようとしてくれる相手が見つかるとは思えないが、それでも間違いなくサカズキよりはマシである。
そう力説するとサカズキの眉根にムッと皺が寄ったが反論してこないということは納得したんだろう。
自分を客観視できているのはいいことだ。
サカズキが自分を人から好かれづらい人間だと理解してくれているからこそ、こんなふうに大っぴらに好意を示しても本当の気持ちはバレずに済むのだから。

「金とリスクで相手を選ぶたァ、情けないのう」
「両方とも大切なことだぜ?それにさァ、なんだかんだいっても、おれはサカズキといるときが一番ラクで楽しいんだ」

だからサカズキ、結婚しよう。

普通なら口にできるはずもない気持ちの欠片を吐き出す口実に使っただけで実現させる気など微塵もなかったプロポーズ。
冗談として処理されたはずのそれが現実になって襲ってきたのはそれから数十年ののち、サカズキの五十の誕生日のことだった。




「ーー約束じゃあ。養っちゃるけェ、おとなしゅう来い」

挨拶もそこそこに「どうせ良い相手なんぞおらんのじゃろう」と失礼なことを抜かした男をぽかんとしたまま見つめていると「おるんか」と不安が滲む声で問われて慌てて首を振る。
十年ほど前、自分で言った通りに片脚を失い海軍を退役したおれの前に現れたサカズキが何をしにきたかは理解できたがそれでも訳がわからない。
まさかおれのことを好きなわけでもないだろうに、遠い昔の戯言を律儀に守る必要がどこにあるというのか。

「……おどれが馬鹿なことを言いおったせいで諦めも出来んかったんじゃろうが」

苦々しげに告げたサカズキが諦められず抱え続けていたものについて考えているうち、ふとあることに気がついて愕然とした。
そういえばあのときサカズキの口から一度も否定的な言葉が出ていなかった、ような。
そんな馬鹿なと思いつつ強張った表情でこちらの様子を伺うサカズキの頬に恐る恐る唇を寄せてみる。
顔を離してしばらくした後でようやく「子供じゃあるまいし口にせんか」と詰ってきたサカズキの頬は、まるで恋でもしているみたいに柔らかく色づいていた。