捕虜になったエースが諦め悪くーー半ばやけっぱちで白ひげの首を狙っていたころ。 他の皆がオヤジや家族のことを話して聞かせるなかアルバは一人自分のことを語り、エースの話しを聞きたがっていた。 最初は本気で鬱陶しいやつだと思っていて、当然返事すらしなかった。 それでも全くめげないアルバが無視しているのを無視してどんどん話しかけてきたものだから辛いものが好きなことだとか能力者でもないくせに泳ぎが苦手なことだとかどうでもいい情報が頭の中に溜まっていって、うるさく話しかけてくる声に心の中で勝手に答えが浮かんでくるようになって、決まった時間にアルバが姿を見せないとそわそわ落ち着かない気持ちになったりして。 白髭海賊団の面々を家族として受け入れた後、他の奴とは上手くやれているのにどうしてアルバにはああなんだと疑問をぶつけられてギクリとした。 答えられなくて黙っていたら余程相性が悪いんだろうと納得されたが、エースはもう寄ってくるアルバを鬱陶しいと感じなくなっていたのだ。 じゃあどうして自分はあんな態度をとってしまうのかと考えてみても腹の奥にもやもやしたものが溜まるばかり。 八つ当たりみたいにアルバに感情をぶつけて、それでもアルバが離れていかないことを確認したらやっと気持ちが落ち着いた。 今になって思えば、その頃にはもうアルバのことをすっかり好きになってしまっていたんだろう。 気づいたからといってどうなるものでもないけれど。 このままじゃいけないなんてことはずっと前からわかっていた。 けれど他に方法がなかった。 エースが気を許してしまえば仲のいい兄弟にはなれるだろうが、きっとアルバの特別扱いは終わってしまう。 愛してくれと縋れば叶えてもらえるかもしれない。 けれどそれをして得られるのは所詮『エースが望んだから』与えられる偽りの愛情だけだ。 アルバの特別が欲しかった。 態度を変えて今の関係が崩れてしまうのが怖かった。 アルバは辛抱強く心を砕いてエースに向き合おうとしてくれたから、昨日も今日も優しくしてくれたのだから明日だって大丈夫だと言い訳をして問題が見ないように目を閉じた。 いつまでも心を開かず噛み付いてくるばかりの相手に愛想を尽かさない人間などいやしない。 わかっていたのになにもせず、今日と同じ明日が続くことだけを祈っていた。 『今まで悪かったな、エース』 そう言って笑ったアルバは、何も悪くなどなかったのに。 お前の好きってそういう意味なのかと慌てたようにサッチに問われ、エースは自分でもそれが否定か肯定かわからないまま曖昧に首を振った。 意味なんて知らない。 ただアルバはエースにとって特別な存在で、エースはアルバの特別でありたいと思っていた。 ただ、それだけのことだった。 |