愛がなくてもセックスはできるけれど、幾度も肌を重ねていれば情の一つや二つ湧いてくる。 男というのはそういう生き物だ。 「そう思わないかルッチ」 「……『欠陥品』らしい考えだな」 広いベッドの上、腕の中でもぞりと動く物体に問いかけると案の定嘲笑が返ってきた。 カーテンを閉め切った薄暗い部屋に黒い瞳がキラリと瞬く。 殺戮兵器と呼ばれるこのしなやかで美しい男と関係を持つようになったのはもう三年も前のことだ。 一方的な惨殺の後の熱を冷ますための処理に、手っ取り早くそのへんにいた俺が選ばれた。 それだけの話。 正直もっと後腐れのない相手がいただろうにと思う。 なんだって俺みたいな情に流されやすすぎて潜入任務を任せられないCP9の『欠陥品』に抱かれようなんて考えたのか。 三年たった今でも……いや、三年も続いたからこそルッチの考えが俺には心底わからない。 わからないけれど、惰性のままにしておくにはルッチは魅力的すぎた。 そう、失う覚悟の上で、万が一の可能性に賭けてみたくなるくらいには。 「ルッチ、お前は違うのか」 言外に三年間も抱かれていてそこに情の欠片も生まれはしなかったのかと尋ねると、ルッチが「当然だ」と即答した。 その表情は照れ隠しなんて可愛らしいものとは程遠い、嫌悪や不愉快をめいっぱい表したような。 スッと頭を浮かしていた熱が引いて、目の前に冷え冷えとした現実だけが残る。 予想はしていたが呆気ない終わりだ。 まあ、こんなもんだろう。 奇跡なんてそうそう起きるもんじゃない。 我ながら見込みのない勝負に出たものだと自嘲して、これが最後と額にキスを落とす。 迷惑そうに眉をしかめるルッチに笑い声を漏らすと更に眉間のしわが深くなった。 「なんだ」 「いや、なにも」 こういう行為に嫌そうな顔をしながらも絶対に抵抗しないから期待してしまったのだ。 責任の押しつけなんてみっともない真似をするつもりはないけれど、いかに『欠陥品』と呼ばれようと俺だってCP9の端くれ。 ルッチでなければここまでのめり込みはしなかったと思うと、やはりロブ・ルッチは罪な男である。 「俺はお前に情が湧いちまったよ」 「……ふん」 想定済みだ、という無感情な声が脳内で反響する。 初めから面倒なことになったら切り捨てるつもりだったらしい。 ほんの少しでも希望があると思った俺は、本当に馬鹿だ。 「……じゃあ、俺は部屋に帰るな」 抱きしめていた腕を解いて上半身を起きあがらせるとルッチが怪訝そうに目を眇めた。 いつもこのまま一緒に眠っていたから不審に思ったのだろう。 一分一秒でもこの時間を長引かせたい気持ちはもちろんあったが、いま離れなければ俺はきっとルッチに縋ってしまう。 早く一人になって、気持ちを整理して、明日の朝にはいつも通りの顔でおはようと言わなければならない。 情けない姿を見せるのだけはちっぽけな矜持が許さなかった。 「おいアルバ」 「おやすみ、ルッチ」 何かを言おうとしたルッチの言葉を遮るように別れを告げ、笑みを張りつけながら足早に部屋を後にする。 時刻は深夜だというのに廊下の窓から差し込む日光で目が痛い。 滲む視界は、そのせいだ。 |