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「ずっと前から好きなやつがいるんだ」

月明かりが差し込むベッドの上で呟くようにそう言ったアルバの顔にはまるで計ったように影がかかっていて、どんな表情を浮かべているのか伺い知ることはできない。
けれど声色を聞けばそれが冗談ではないことはすぐに理解できた。
同じ時期に家族になりこの広いモビーの中でもずっと、腐れ縁のようにそばにいた。
身体の関係だって、なにがきっかけだったかはもう忘れてしまったが若い時分から今に至るまで自然ととぎれず続いていて、少なくともいま現在アルバの一番近くにいるのは自分だと自負していたのにそれは思い違いだったのか。

「……そりゃァ、初耳だよい」

何を言えばいいかわからなくてとりあえず動かした口から出た言葉はぎこちない。
いやだ、と思った。
アルバに好いた相手がいることではなく、そのことで動揺してしまう自分が。
友人であり家族という近すぎる相手への不毛な恋心など自覚した瞬間に諦めた。
身体を重ねても二人の関係は変わらず、だからアルバがどこぞの誰かに惚れた末にめでたく結ばれたとしても、笑顔で、友人として、家族として祝ってやれると思っていた。
そうでなければならなかったのだ。
そうでなければ、おれはアルバの傍にいられなくなってしまう。

「初めて言ったから、まあ初耳だろうな」
「……なんで今更」
「今更だけど言っときてェなと思ったんだ」

どれだけ鍛えてたっていつ死ぬかわからねェしと肩を竦めるアルバの左腕には肘から下が存在しない。
先日の戦闘の際にマルコの知らないところで落っことしてきたのだ。
不死鳥の能力を持つマルコと違ってただの人間であるアルバの腕は当然二度と生えてはこない。

「それで、」

一歩間違えれば失っていたのは腕ではなく命だったかもしれない。
そう考えて、秘めていた想いを口にしたのか。
自分との関係を清算して『好きなやつ』のために生きようと、そう。

想像して、顔が歪んだ。
笑わなければと思うのに噛みしめた唇はちっとも持ち上がってくれない。
笑え。
笑わなければ、笑えなければ、もうアルバに誘われることもなくなるのだろうに、懸命に保ち続けてきた友情すら崩壊してしまう。

「おい、人が告白してるときにそんな酷い顔するんじゃねェよ」
「ッ、な」

急にぐいと顎を掬われて悪あがきに俯いた顔を持ち上げられ、反射的に「なにすんだよい」といつもの悪態をつこうとして動きが止まった。
相変わらず影になっているアルバの顔の中、唯一うっすらと見えている唇がいつになく優しげな笑みを湛えていたからだ。

「なあマルコ、ずっと前から好きなやつがいるんだ」

関係を崩したくなくて言えなかったけどずっとずっと好きだった。
そんなセリフに締め付けられたようだった喉がひゅっと鳴る。
アルバの唇が言葉を紡ぐのがスローモーションのように見えて目が離せない。
関係が崩れるのを恐れていたのはマルコも同じだ。
けれど。
けれど、これは。


「好きなんだ。

ーーお前のことだよ、マルコ」


微笑みながらそう告げたアルバの手は冷たく、声も少しだけ震えていて、けれどここに至っても何も口にすることができなかったマルコにアルバを臆病者と笑う資格はないのだろう。
溢れてくる嗚咽を堪えるのに必死なマルコに出来るのはアルバの少しぎこちない笑みに自身の唇に押し当てることだけだった。