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「あっ!あーくそ、もう少しで完成だったのに…!」

ごうと炎につつまれたと思うや早々に黒焦げになった花の燃えカスに悪態を吐くエース。
故郷を思い出す一面白の花畑を見つけたまには童心に帰ろうと遊びに誘ったときにはこんな無残ことになるとは思ってもみなかったのだが、どうやら過度に集中すると上手く能力のコントロールができなくなるらしいエースに花冠は難易度が高すぎたようだ。
エースが悪戦苦闘して燃えカスを量産している間に作り上げた三つめの花冠を癖の強い黒髪の上に重ねると不貞腐れた顔がおれを見上げた。

「お前の黒髪には白が映えるね」
「なんだよ、人が苦労してるってのに簡単に作りやがって」
「昔からよく作ってたから手が覚えてるんだよ」

よく作ってた、と言った瞬間ぴくりと動いた目元に「妹にせがまれてね」と付け足すとホッとしたように力が抜ける。
エースはわかりやすそうに見えて案外わかりにくくて、そしてやっぱりわかりやすい。

「かわいいなァ」
「……おれは可愛くねェ」
「かわいいよ、エースは」

自然と緩む頬を隠さずなおも言い募ると落ち着かない様子で視線をうろうろ彷徨わせていたエースはそのまま居心地悪そうに俯いてしまった。
ぎゅっと結ばれた唇と眉間に寄せられた皺はまるっきり不快を表しているようにしか見えないがそうでないことは以前本人に確認済みだ。
可愛いと言われるのは嫌かと尋ねたおれに嫌じゃない、嫌なわけじゃないと否定を繰り返し、繰り返すたびに一段一段と肌を赤く染めて、けれどどうしてそんな顔をするのかは教えてくれなかったエースのこれはつまり照れているということなのだろう。
一体どんな育ち方をしたのか、エースは誰より一等きらきらと輝いておきながらその根底では異常なほど自己肯定感に欠けている。
自分なんて愛されるはずがないと思い込んでいるせいで好意を伝えても素直に受け取ってもらえない。
しかしこうして羞恥と猜疑に揉まれておれの言葉を否定しつつさっきのは本当に本心からか、もう一度言わないかとちらちらこちらを伺ってくるのだからおれはエースがかわいくて仕方がないのである。

「ほらエース、手かして」

ムスッとしたままのエースの手を取りさっき花冠と一緒に作っておいたものを指に通す。
宝石の代わりにコロコロとした白い花がついたそれはお手軽に作れるわりには案外見栄えがいい。

「ずっと一緒にいような」

にこりと笑って少し緩い指輪を嵌めた手を撫でると、数拍ののちボゴッと炎を吹き上げたエースによりおれが贈った指輪と三つの花冠は焼失した。
指輪を燃やしてしまったエースは半泣きになってしまったが花で作ったものは何もしなくたっていつかは枯れる。
大切なのは贈って、受け取ったという事実だ。
約束という事実だけは、指輪が枯れたってなくならない。









「ーー約束したんだ」

あのあとエースは一生懸命編んでくたくたになってしまった世界一美しい花の指輪をおれにくれて、ずっと一緒だと約束したのに、それなのにエースはいなくなってしまっておれもついていけなかった。
仕方がない。
仕方なかった。
けれど、約束は守らなければ。

「エース」

全て終わらせたらおれもすぐにいくから。
そうしたら今度こそ、ずっと一緒に。


(シロツメクサ:花言葉『約束』、『復讐』)