「フッフッフ!よくやった、ベラミー。さすがおれの認めた男だ」 特徴的な笑い声とともに賞賛の言葉をかけられ、ベラミーは心底誇らしい気持ちになった。 ずっと憧れ続けた男に認められたのだからこれほど嬉しいことはない。 しかしふと違和感を覚えて眉を寄せると、すぐその違和感の正体に気づいてむっと口の端を引き下げた。 妙に静かだと思ったら、こういうときいつもなら真っ先にベラミーを褒めそやすはずのアルバがいないのだ。 こんな素晴らしいときに自分を放ってどこをほっつき歩いているのか。 口角を下げたままあたりを見渡し、離れたところに見えた背中に少し早足で近づいていく。 駆け寄ったりなんて格好の悪いことはしない。 あくまでも早足で、だ。 「おいアルバ、こんなところでぼーっと突っ立って何してるんだ」 声をかけてみるが反応はなく、まさか立ったまま寝ているわけでもあるまいと自分より頭一つ分高いところにある後頭部を睨みつける。 そういえばアルバの後ろ姿を見るのは久しぶりだ。 アルバはいつも船長であるベラミーの後ろをついて歩くから、振り返ったときに見えるのは必然的に正面を向いた顔だった。 「……おい」 しばらく待ってみても振りかえろうとしないアルバに落ち着かない気分になって再度不機嫌を訴えるように低い声を出す。 ドフラミンゴに認められた。 褒められたんだ。 すごいだろう、アルバ。 『すごいなァ、さすがベラミー!』 いつも求めずとも勝手に与えられていたはずの賞賛。 別に、そんなものがなくたってなんの支障もありはしない。 とはいえ無視されれば腹がたつのは当然で、苛立ち、乱暴に肩を掴もうとした手は、けれどそれまで棒立ちだったアルバが突然動き出したことにより空を切った。 「お、……っおい、アルバ!?」 こちらを振り向くことなくすたすたとどこかへ歩いていくアルバを追おうとするが、足がやけに重くて動かない。 ぎょっとして足に視線をやるものの特に異常があるようには見えず、動かない足に四苦八苦しているうちにもアルバとの距離はどんどん開いていく。 足が、アルバが、追いかけなければ、どうして。 「待てよ!おい、どこに行くんだよ!」 混乱して悲鳴のような声をあげてもベラミーの足は動かずアルバの歩みが止まることもない。 まって、まってくれ。 聞く相手もいない懇願の言葉を無意味に垂れ流すベラミーを、頭のどこかにいる冷静な自分が「格好悪いな」とせせら嗤っていた。 「ーーい、おい、ベラミー?大丈夫か?」 パチパチと軽く頬を叩かれる感覚でハッと目を覚ましたベラミーは、心配そうに自分を覗き込んでいるアルバを見て一瞬詰めた息を小さく、ゆっくりと吐き出した。 「魘されてた。悪い夢でも見てたのか?」 大きな手に額の傷をなぞられて自分が汗だくになっていることに気づき、チッと舌打ちをして手を払う。 「なんだ、機嫌悪いな。どんな夢だったんだ?」 「……ドフラミンゴに認められた」 「……?いい夢じゃないか」 そうだよいい夢だったんだよテメェが出てくるまではな! そう罵しりかけて自身の夢が人に説明できるような内容ではないことに気づいたベラミーは、喉まで出ていた言葉をぐっと飲み込んで苛立ちまぎれに目の前で首をかしげているアルバの無防備な腹を殴りつけた。 うっと呻いたアルバが「酷いぞ」と訴えてきたが少なくともベラミーの中では自業自得である。 「……おい、アルバ」 「どうしたベラミー」 まだ色々と思うところはあるが、起きたとき傍にいたことで清算してやってもいいだろう。 |