×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

今日はなにやらニューゲートの機嫌が悪い。
例えばおれが家族とじゃれ合っているときだとかナースに不摂生を咎められているときだとか、あからさまに表に出すことはないが、じわりと滲み出るような『不愉快』を感じるのだ。
タイミングから察するに不機嫌の理由は嫉妬なのだろうとは思う。
しかしなぜ今更。
恋仲になって数十年になるが今まで一度だってこんなことはなかったし、なんならあまりの懐の広さに少しくらい妬いてくれてもと不満を感じたことすらあるというのに。
しばらくすれば落ち着くかとその話題には触れないでいたものの夕刻になって収まるどころかより傾斜がかかってきたニューゲートの機嫌の傾きに、さてどうしたものかと顎を掻いた。
もう少しこの珍しい現象を楽しみたい気もするのだが、そろそろいい加減に家族の目が痛い。
おれに非はないはずなのにいつも通りに過ごしているだけでそこかしこから浮気男を詰るような視線をむけられるのだからニューゲートの人望の厚さも困ったものである。

「ニューゲート」

海を眺めているのかただ単にぼんやりとしているのか、船縁に腕をかけてじっと動かないニューゲートに話があると親指で船内へ促すと、ニューゲートは少しばつが悪そうに目を伏せたのち小山が動くようにしてのっそりと立ち上がった。
いかにも渋々といった様子からしてどうやらなにを言われるかはわかっているようだ。
それなら話ははやいと部屋について一息つくなり遠慮なく「今日は随分機嫌が悪かったじゃないか」と話を切り出す。
また目を逸らそうとしたニューゲートの顔を両手で捕まえじっと目を見つめると、観念したらしい溜息とともに「夢を」という小さな声が吐き出された。

「おめェが、他の人間と生きることを選んだ夢を見た」
「……………、おう」

自棄になったような声色で投げつけられた言葉の意味を咀嚼するうちじわじわと生温い感情が湧いてきて、あまりのむず痒さに口元を緩めると指先で頭を小突かれた。
だって、わかってはいたがあまりにも今更なのだ。
この歳になって今更そんな夢を見て、そんな夢ごときの影響で隠すこともできないほど機嫌を悪くするなど、お前はどれだけかわいいのかという話である。

「なんだよ、今まで嫉妬なんて全然してくれなかったくせに」
「……おれの恋人がテメェで決めた人間以外に浮つくようなだらしない男だとは思ってなかったもんでなァ」

信頼を裏切られたと言わんばかりにむすりと唇を突き出し、この浮気野郎が、と開き直って拗ねてみせるニューゲートに笑みをこぼしてキスを送る。
こんな愛らしい恋人の姿を見ることができるのなら、したこともする予定もない浮気野郎の汚名を被るのもそう悪くはないかもしれない。