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別れよう。
そう、まるで冷えた金属のように硬質な、感情の見えない声でアルバが告げる。
あまりのことに困惑してどうしてと問えば、言わなくてもわかるだろうと。
わからない。
わかるはずがない。
だって、アルバはいつもサカズキの隣で笑っていた。
アルバは、サカズキを愛してくれていたはずだ。

「……嫌じゃ」

「アルバ、」

「いやじゃァ…」

駄々をこねる子供のような引きつった声を絞り出してもアルバはサカズキを振り返らない。
どんどんと遠ざかっていくアルバの背中は次第に周囲に溶けて消え、そうしてサカズキは一人、暗闇の中。



***


「おーい、サカズキさんやー…」

寝る前に酒を飲みすぎたせいか夜中に尿意で目が覚めて、布団から抜け出そうとしたところを寝ぼけた恋人に捕まった。
便所に行きたいから離してくれというおれのお願いを無言で拒否して縋ってくるサカズキの腕はちょっとやそっとじゃ引きはがせないぐらい力強くて、それなのに無理に離すと崩れてしまいそうな、妙に弱々しい雰囲気があるものだからまいってしまう。
らしくねェな、怖い夢でもみたのかよと背中をたたき、すぐに戻ってくるからと宥めすかしても虚ろな目をしたサカズキはひくりと喉を動かして「嫌じゃァ」と呟くばかり。
ていうか嫌だってなんだよ。
ガキか。
かわいいなクソ。
普段とのギャップにきゅんきゅんとしている間にも膀胱は限界に近づいてきて、おれはもういっそ一緒に連れて行ってしまえと離してくれる気配のない巨体をやけくそ気味に抱えあげた。

「ーー……アルバ、どこへ行くんじゃ」
「さっきから言ってんだろ。便所だよ便所」
「…………便所くらい一人で行けんのか」
「ほんとにな」

道中、冷たい空気が頬を撫でる感覚でようやく覚醒してきたらしいサカズキの言葉に適当な相槌を打ちつつのしのしと廊下を歩く。
寝ぼけていたとはいえ理不尽だなァと思うが、まあいい。
嫌な夢なんてこのまま忘れてしまえ。