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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

*想像妊娠ネタ


ここ一月ほど、部下であり恋人でもあるサカズキの様子がおかしいのは気づいていた。
体調が悪いのかと尋ねてもそうではないと言うだけで、会話の際口ごもることが多くなりセックスも拒否されて、嫌われたのかとも思ったがそれでも別れを告げられないならそれだけで充分だと何も言わずにいた。
しかし今回の件は見過ごすことができない。
体調不良にしろ何か悩みがあるにしろ、今回のサカズキの行動は常から外れ過ぎていた。
普段ならロギアであることをフルに活かして攻撃してきた敵を武器もろともマグマで焼き尽くすのに、なぜか攻撃を刀で受け止めようとした挙句かすり傷とはいえ負傷までしたのだ。
問いただしてサカズキがそんな行動をとるきっかけになった原因を排除しなければいずれ大変な事態を引き起こす可能性がある。
そう、原因は排除しなければならない。
たとえそれが自分自身であったとしても。


「サカズキ、どうして能力を使おうとしなかった」
「……海の屑どもは殺しきりました。後はどう戦おうがわしの勝手でしょうが」
「そういうことを言っているんじゃない。わかっているだろう?」

相変わらずそっぽを向いたままのサカズキに小さく息を漏らし、そういえばここ最近は二人でいても絶対に目を合わせようとしなかったなと思い出しておれは自嘲気味な笑みを浮かべた。
他の奴らに聞いたところ、おれ以外に対する態度は特に変わっていないらしい。
おれだけなのだ。
サカズキの異常の原因も、きっと。

「なあサカズキ、おれに言いたいことがあるんじゃないのか?」

サカズキは将来的に海軍を率いる立場となるであろう優秀な海兵だ。
そんな人材をこんなところで潰すわけにはいかない。
おれとの付き合いで何か思うことがあって、それがどういう形かでかは分からずとも今回の行動につながったというのであれば、おれはサカズキの傍からいなくなるべきだ。
どこか不安を纏った様子でゆっくりと合わさった目を見て「別れたいならそうしよう」と静かに告げ、異動も、別の部隊へ行きたいと言うのならできる限り希望を聞いてやるつもりだと一度閉じた口を再び開く。
と、その瞬間、おれはサカズキのふてぶてしい顔がサッと青褪めるのを見た。

「い、やじゃ……わしは、」
「……サカズキ?」

なぜか庇うように腹を抱え、怯えた瞳で真っ直ぐにこちらを見つめるサカズキに違和感を覚えて手を伸ばす。
恐怖で硬直したように動きを止めたサカズキの腕の隙間から手を差し込んで腹をなぞると、鍛え抜かれた腹筋がほんの僅か、ぽこりと膨らんでいるのが分かった。

「お前……これ」
「っ堕ろしとうない!嫌じゃ、捨てんでください、わしゃァ好きで孕んだわけじゃあのうて……男じゃけェどうなるかもわからんが、でも、堕ろすのは」
「おい、落ち着け!」

これまでの無口さが嘘のように懇願の言葉を吐きだし始めたサカズキに制止をかけ、自身も混乱しそうな頭を努めて冷静に整理しようとして、失敗した。
孕むという単語が聞こえたがサカズキは男でおれも男だ。
そんなことあり得るはずがない。
サカズキだってわかっているだろうに、一体全体どうしてそんな結論を弾きだしてしまったのか。

「孕んだ、ってのは子供ができたって解釈でいいんだよな?……病院には行ったのか?」
「医者にはかかっちょらんが、症状が……腹も日ごとに大きくなっとりますけェ」
「症状!?やっぱり体調が悪かったのか!」
「み、味覚が変わったり多少食欲が湧かんだけじゃ!あとは吐き気ぐらいで……大したこたァありゃあせん!」

カッと目を見開いて詰め寄ったおれにしどろもどろ返してきたサカズキに大したことないわけがあるかと腕を引く。

「医者にいくぞ」
「!い、いやじゃ……堕ろしとうない、この子は、アルバさんの……!」
「勘違いするな!男同士でまずないとは思うが万が一その腹が本当に妊娠で、おれの子を孕んでたとして、誰が堕胎なんぞさせるか!速攻休職届出して家で囲うに決まってるだろうが!!」
「ッ!?」

そうだ、普通に考えてあり得ないことだがここはグランドライン。
男が妊娠することが絶対にないとは言い切れない。
けれど可能性が高いのは当然なにかの病という線で、腹のふくらみが腫瘍か何かならことは一刻を争う事態だ。

「というかあれか。能力を使わなかったのは腹の子に悪影響があるかもしれないとか、そういうわけか」
「あ……はい、赤ん坊がわしの身に着けとるもんと同じようにマグマ化できるかわかりませんけェ」
「そんなところに気を遣うならまず戦場に立つな!子供も、お前の身も危ないだろう!妊婦をなめるな!」
「は、はい……」



ーーそうしてこうして、子供の存在を受け入れられたことが余程嬉しかったのかやけに従順に手を引かれていたサカズキは懇意にしている病院で『想像妊娠』という一安心な診断を受け、肩を落としながら顔を覆うこととなった。
想像妊娠は妊娠を強く願うか恐れるかでなる可能性があるらしいが、サカズキの場合どうやらおれが以前安心させるために言った「子供は必要ない」という一言で逆にそれを意識してしまったらしい。
とりあえず今回の一件で苛烈一辺倒だと思っていた恋人に母性本能らしきものがあるとわかったため、これからは男を孕ますことができる可能性を探って情報を集めていこうと思う。