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あれから数週間。
想像した通り、おれがグラディウスとの接し方を淡白なものに変えようと日常に大した変化はなかった。
カルシウムが足りていないのかいつもより少しカリカリしているグラディウスだが、おれが部屋へ行く回数を減らしたからといって何か言ってくるわけでも自分からおれの部屋に足を運ぶわけでもない。
元々グラディウスが嫌がったのもあって付き合っているということは公にしていなかったからファミリーのみんなにだっていつも通りの二人にしか見えないだろう。
誰もおれの心境の変化に気付かない。
気付いたとしても気に止めない。
唯一、おれとグラディウスが恋人同士であることを知っている若を除いては。


「アルバ……お前、グラディウスと何かあったか?」

朝食を食べ終えて席を立ったおれを呼び止め、愉快そうに唇の端を吊りあげて耳打ちしてきた若にひくりと頬を引き攣らせ、まいったなァと頭を掻く。
グラディウスに蔑ろにされた気になって少し拗ねたが若至上主義なグラディウスにそれを言ったところでどうこうなる問題でもないから二人の天秤がつりあうよう付き合い方を改めた。
要約すればそれだけの話で、別に隠さなければならない内容は一つもない。
ないのだが、なまじ喧嘩したり別れたりしたわけじゃないから人に説明しようとすると軽く恋愛相談みたくなってしまうのだ。
若に恋愛相談とか、シュールすぎて正直困る。

「あー……なんでそう思いました?というか、何かあるように見えます?」
「いやァ?いつも通りだが、ただここのところお前といるとグラディウスがずっとこっちを見てるもんでなァ」
「なるほど、それはあれですね。若のこと見てるだけです。あいつ若のこと大好きなんで」

おれとのスキンシップより若の敵に対する攻撃手段を増やすことを優先する程度には、という八つ当たりじみた言葉を飲み込んでへらりと笑うと若も少し間をあけて笑みを深くした。
あ、これ絶対納得してないわと確信できる悪い笑顔だ。

「えーっと、そんなことより若!後ろのほう寝癖ついてますよ!」
「寝癖……?どこだ?」
「そっちじゃなくてもっと右……ここです、ここ」

わざとらしく話題をそらし、見当違いなところへ手をやる若に屈んでもらうとおかしな方向に跳ねている髪を撫でつける。
手のひらを滑るようなふわふわとした感触に将来危なそうだなと失礼なことを考えながら「若の髪は猫っ毛で気持ちいいですねェ」と呟くと「お前も大概だろうが」とカウンターを受けた。
ショックだ。
まだ前兆はないとはいえ先のことは誰にもわからない。
太さも量もあるグラディウスには到底理解できない悩みだろう。

「フッフッフ!視線が痛ェなァ、アルバ?」
「……そうですねェ」

隠す様子もなしに背中に突き刺さる視線、もとい殺気。
あとで「気安く若に触るんじゃねェ」とでも言われるんだろうなと考え、おれはため息とともに肩を落とした。
説教だろうが何だろうがグラディウスから話しかけてくれるだけで嬉しいなんて、我ながら安い男である。