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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

単独任務は嫌いだ。
グラディウスと別行動を取らなければならないのは寂しいし、活躍してもそれを見せたい相手が傍にいないのでは意味がない。
だから出発前には離れたくないとぐだぐだ駄々をこねて「せっかく若のお役に立てるというのに貴様はそれが不満だとでもいうのか」とグラディウスをイラつかせるのが恒例行事みたくなっているのだがあんなふうに想いの差を見せつけられた翌日となると憂鬱なはずの単独任務もむしろありがたいくらいで、怒りとも悲しみともつかない感情の整理をつけたかったおれが渡りに船とばかりにまだ日が昇りきる前の海へ出たのがちょうど二週間前のこと。
いつもと違って顔を見ることもなく出立したおれのことをグラディウスはどう思ったのだろう。
帰還する船に揺られながらぼんやりと考えて、別にどうも思いやしないかと自嘲の笑みを浮かべる。
ファミリーの一員たるおれが若のために行動するのは当然のことであり、任務のたびに離れたくないだなんだと不満を漏らしていた今までがおかしかったのだ。
少なくとも恋人と離れがたいなんて感じたことすらないであろうグラディウスにとってはそうに違いなく、つまり今回おれが駄々をこねなかったのは異常だった行動が正常に戻っただけ。
気にするほどのことじゃない。
ーーもしこれが若に関する事柄なら、グラディウスはどんな些細な変化にも気付いて意識を傾けたりするのかもしれないが。

まあ、そんなものだ。
若をなによりも一番に優先させて、触れることはせず、ときどきは二人きりで世間話でもして。
グラディウスとの距離感は、きっとこのくらいが丁度いい。




「あれ、グラディウスだ。ただいま」
「!……アルバ」

外で身体を動かしてきたのか汗と砂埃のにおいがするグラディウスに向けて軽く手をあげる。
と、構えるように身を引かれ、おれはきょとりと目を瞬かせた。
一瞬わけがわからず、しかしすぐに意図を察して「髪には触らないよ」と手を下ろすと少しばつが悪そうにそっぽを向いたグラディウスも「わかっているならいい」と無愛想に呟いて体の力を抜く。
予想通りおれが任務でいない間に髪に毒を仕込むようになったらしい。
わかっていたことだが改めて本気でおれに触らせる気がないんだなと再確認して、なんだか笑いが込み上げてきた。
こいつ、なんでおれの恋人になったんだろう。
興味がないならおれが告白したときにハッキリ断ればよかったのに。

「……帰っていたのか」
「うん、ついさっきね。今から若に報告行くところ」

特に変わったこともなかったため恙なく完了した旨を伝えるだけだが早く報告するに越したことはないし、なにより『若を待たせるなんてもってのほか』だ。
いつも任務が終って一番にグラディウスに会いに行くたび受けていたお決まりの説教を思い返して苦笑する。
グラディウスはおれがいなくて寂しいとか早く会いたいとか、そんな気持ちになったことないんだろうな。
考えれば考えるほど釣り合いがとれていなくて、虚しい。

「予定より数日遅かったようだが」
「ああ、海軍を避けるために少し帰路を変更したんだ」
「……そんな話は聞いていないぞ」
「若にはちゃんと連絡したよ」

若の予定を狂わされるとでも思ったのか、どこかイライラした様子でこちらを睨むグラディウスにハンズアップしてそう返し「じゃあ報告に行かなきゃいけないから」と横をすり抜ける。
引き止めてくれないかという微かな期待は見事に裏切られ、舌打ち一つ残して去っていく気配におれは乾いた笑いを漏らした。