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- ナノ -

グラディウスには露出が少ない。
常時長袖長ズボンとかそんなレベルじゃない。
出てる部分なんてデコと髪だけだ。
その希少な露出部分ですらメットやシルクハットでがっつり隠される場合もあるのだから相当である。
素肌を曝すのもそこに触れられるのもわかりやすく嫌がるグラディウスだがそれでもこれまでは二人きりで過ごすときに辛うじてデコと髪の露出だけはキープしてくれていたから、おれはグラディウスの硬い髪をわしゃわしゃと撫でてセットを崩し、怒りで青筋の浮いた額にキスすることでスキンシップをはかってなんとか不満を抑えることができていた。
そう、これまでは。

若の役に立つため、戦闘で武器として使うためにその硬い髪に毒を仕込むと言い出した恋人を前におれの心は未だかつてないほど凪いでいた。
あーあーそうですか、という感じだ。
はっきりいってグラディウスは強い。
狙撃の腕もいいし、悪魔の実の能力もストレートに戦闘向けだ。
毒なんて小細工をするまでもなく大抵の敵は打ち倒せるだろう。
それなのにいつ必要になるか、必要とするかもわからない毒を髪に仕込むというのは、それは即ちおれとのスキンシップの重要度が『その程度』ということに他ならなかった。

「アルバ、聞いているのか?」
「……聞いてる。ちゃんと聞いたよ。髪に毒を仕込んで毒針にするんだろ」
「ああ、そうだ。だからーー」
「いいんじゃないか、別に。それが若の役に立つなら、勝手にすればいい」

何か続けようとしたグラディウスの言葉を遮り、ひらひらと手を振って踵を返す。
もうあの手に刺さるような硬い髪を掻きまわすこともない。
セットを崩されて怒るグラディウスの隙をついて額に口付けることもない。
それ以外に恋人らしいことなんてしたことあったっけと考えてすぐなかったなと結論が出た。
唯一の恋人らしい接触がなくなって、じゃあおれとグラディウスの関係って一体何になるんだろうか。
まあ恋人でもそうじゃなくても、グラディウスにとっては毒針より優先順位の低い、『その程度』の関係でしかないんだろうけど。