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ジャンバールに連れられてもどってきた船内はシンとしていて、誰一人笑っていなかった。
嫌な空気だ。
そして、鈍感だなんだと言われるおれにだってこの空気の理由が船長……ひいては、おれのせいだということくらいはわかる。
本当にこの船に乗ったのは失敗だった。
おれがいるせいで、おれの好きなみんなは笑顔になれない。

「……船長は?」
「お前待ってる間に酒飲みまくって早々に潰れちまったよ。昨日買ってきたばっかの酒がどんどん減ってくのをおれがどんな気持ちで眺めてたかわかるか?」

明日もう一回買い出しだお前も付き合えと小突いてくるシャチは、きっと暗い雰囲気のおれを慰めてくれているのだろう。
その心遣いからすれば荷物持ちくらい軽いものだ。
買い出しでもなんでも、いくらだって付き合ってやる。
明日、おれがまだハートの海賊団のクルーでいられたらの話になるけど。

「そういやお前、指輪!指輪どうしたあのでっかいルビーの!」

慌てた様子のペンギンに、ああ、と随分長い間所有していた指輪のことを思い出す。
そういやペンギンにはあの指輪にこめた願いを聞かせてたっけ。
このまま船に乗ってたって指輪を渡せる日はきそうにないから諦めてしまった願い。

「指輪はなァ……売った」
「売った!?売ったって、なんでまた」
「この本買うのに金が必要だったんだよ。値切りに値切って300万ベリーした」
「お前普段本なんて読まないだろ!?なに無駄にクソ高い本買ってんだ!」

先ほど購入したばかりの一冊の本に視線を落とし自嘲する。
俺が読むわけじゃないけど、結局無駄にかわりはなさそうだ。
どうせ渡せないなら指輪を持っている意味なんてないし、いっそのこと物で釣れたらなんて馬鹿なことを考えた。
そんなことで好きになってもらえるはずなんてないのはわかってるのに。

そのあとも矢継ぎ早に私服だった理由や一人で街へ出た理由を聞かれたが、別になんのことはない。
本屋の主人が海賊嫌いで昨日風体を見るなり追い返されたからつなぎを脱いでいっただけだし、一人だったのは、プレゼントを買うのに連れだって行動するのもおかしいと思ったからだ。

「つーか、そんなことでハートの海賊団裏切ったと思われるとか、おれもほんと信用ねェよな!」

私服での単独行動で呼び戻されたということは海軍に情報売ろうとしたとか他の海賊に寝返ろうとしたとか、そういうことを疑われたんだろう。
茶化してしまわなければ涙が出そうで無理やり笑顔で言い切ると、それまで黙って聞いていたジャンバールが「ハァ!?」と大口を開けた。

「お前なにを言って、まさか、いやまさか!わかっていないのか!?」
「なにを?」
「船長がお前をどう想っているか、だ!」
「わかってるよ、嫌われてんだろ」

なにせ他のみんなには気の緩んだ様子をみせるのに、おれに対してだけ、船長はいつも焦って怒って苛立って緊張している。
今更考えるまでもない。
そういうとジャンバールが金魚みたいに口をパクパク動かした。
まさかそんないやでもそんなと繰り返し呟き、シャチがこういうやつなんだよと肩をたたくと頭を抱えてうなだれるジャンバール。
ペンギンも同じように手で顔を覆っている。
なんだなんだ仲間外れか。
気になるから誰かおれにもわかるように説明しろ。