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「最初に言っとくがこれは説教じゃない。断片的にしか話を聞けてねェから何があったかよくわかってねェし、これ以上首を突っ込むなって言われても仕方ない」

それを承知の上で、と言葉を続けたサッチ隊長の話を聞き、おれは思わず困惑に眉を寄せた。
エースが泣いた。
それも、おれに嫌われたと思って。
昼間様子がおかしかったことから何かあるんじゃないかと心配はしていた。
しかし関わらないと決めた以上追いかけるのはお門違いだろうとなるべく考えないようにしていたのに、予想外にも程がある。
それもただ泣くだけじゃなく能力を暴走させかけてモビーの床を焦がしたうえ今は泣き疲れて子供のように眠っているというのだから、本当だとしたらとんでもない話だ。

「正直信じられないんですが、おれの興味を引くために話を大きくしてるとかじゃないですよね?」
「そう言われると思ったぜ……やっぱりあのとき実物見せるべきだったよなァ」

完全に判断ミスだと肩を落とすサッチ隊長に、主観が混じっているのは別として少なくともわざと誇張しているわけではなさそうだと思いなおしてならばなぜと理由を探る。
おれに嫌われたとは言うけれど実際に嫌っているのはエースのほうだ。
よしんばおれが本当にエースを嫌っていたとして、ついこの間まで鬱陶しいと睨みつけていた相手に嫌われることが大泣きするほどの衝撃に繋がるとは思えない。

「あのときなんでエースがおれのところに来たのかもよくわからないしなァ……」
「あー……なるほど、そこからか。そういや謝れなかったって言ってたな」
「謝る、ですか?」

なんとなく嫌な予感がして鸚鵡返しに聞き返すとサッチ隊長はがりがりと頭を掻き少しバツが悪そうにことの顛末を聞かせてくれた。
エースがおれを探しているふうだったこと。
プレゼントの包みを見せたら食いついてきたこと。
少し意地の悪い言葉で焚き付けたこと。
予想以上にお節介を焼いてくれていたらしいサッチ隊長に思わず寄りそうになる眉間の皺を軽く解し、自身の考察を纏めあげる。

「……罪悪感」
「え?」
「だから、罪悪感でしょう。サッチ隊長の話聞いて、おれを決定的に傷つけたとでも思っちまったんじゃないんですか?」

え?と再度困惑の声をあげたサッチ隊長はエースがおれを嫌っていないと思っているようだが、残念ながらこれまで散々拒絶されておいて今更そんな勘違いに乗れるほどおめでたい頭はしていない。
エースがおれに嫌われたという理由で泣いたというのなら、それはエースは優しいやつだから。
おれを――家族を傷つけたことに動揺し、自らも傷ついたせいに他ならないだろう。
嫌いな相手を突き放すくらいしかたのないことなのに、泣くほど取り乱すなんて可哀想に。

「わかりました。エースが起きたらきちんと話をして、それからまた距離を置きます」
「やめてやれよ可哀想だろ!!」

サッチ隊長の言葉に合わせて大波を越えたモビーまで抗議するかのごとくギィギィと船体を軋ませてくれたが、全然わかってねェと喚くサッチ隊長こそなにもわかっていないのだ。
エースがおれを好いているだなんて都合のいいこと、小説や舞台劇でもあるまいし。

「大丈夫ですよ……ちゃんと話しますから」

尚も言い募ろうとするサッチ隊長を止めるように曖昧な笑みを浮かべ、静かに目を閉じる。
『きちんと話しをする』にあたって期待は毒にしかなりえない。
期待さえしなければ、諦めるのはそう難しいことではないのだから。