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ようやく緊張せずに寛ぐことができるようになったアルバの部屋の中、ロシナンテは最近になって食器棚の手前に置かれるようになった自分専用のマグカップをぼんやりと見つめながら昨日の出来事を考えていた。
数年来顔を合わせていなかった兄と再会を果たしたのは昨日、近隣にある数校と合同で開催する体育祭の打ち合わせに出席したときのことだ。
元より不真面目な格好を好んでいたとはいえ久々に会った兄、ドフラミンゴはロシナンテの感性ではあり得ないほどちゃらちゃらとしたシャツの着崩し方をしており、教師として、また兄弟として非常に不快に思わざるを得なかった。
しかし再会後の第一声で「なんだその格好は」と不良生徒を叱りつけるような言葉を吐いたロシナンテをドフラミンゴは些かも気にすることなく、それどころか記憶通りの神経に触る笑い声をあげたかと思うと実の弟に向かって「コレを贈ってきた奴が見えるようにしとけってうるせェんだ」とネックレスを見せつけ惚気話を始めたのである。

「『首輪』がないと不安なんだと。わざわざバイトまでしてブランド品買われちゃァ、しかたねェよなァ?」
「……おい待て、アルバイトってお前、まさか教え子に手を出したんじゃ」
「フッフッフ!まさか、卒業生だ。まあ在学中にも唾くらいはつけてたがなァ!」

それに手を出されたのはおれのほうだと自身がどれほどその恋人とやらに愛されているかを自慢するドフラミンゴは殴り倒したくなるほど鬱陶しかったがこれもまた教師に相応しくない奇抜なサングラスに隠れたその顔は真実心の底から幸せそうで、血の繋がった弟としてよかったと思う反面やはり腹立たしいことこの上なかった。

別に、ロシナンテとて愛されていないわけではない。
年上の恋人であるアルバは普段おどけた態度をとっているが指導者として尊敬に足る存在だし、時々意地が悪いのを除けばロシナンテの拙いわがままもすんなり受け入れ大人の余裕で甘やかしてくれる。
けれど考えてみれば求めているのはロシナンテばかりな気がして、昨日のドフラミンゴの話を聞いて少しだけ――ほんの少しだけ、あんなふうに束縛されてみたいと思ったのも事実で。


「……ロシナンテ?おーい、ロシナンテ先生ー、聞いてますかー」
「へ……あっ!す、すみません、ボーッとしてました!」
「いやいや、そんな謝らなくてもいいんだけどね。考え込んでたけど、なんか悩み事?」

不満というほどではないにしろアルバの愛情に文句をつけるようなことを考えていた手前「相談ならオジサンに任せなさい」と下手糞なウインクをかましたアルバの優しい瞳にどうしても居た堪れない心地になってしまう。
それなのにうろうろと目を泳がせて床に視線を落としたその頭をアルバが優しく撫でてくるものだから、ロシナンテはついうっかり、これはいつも通り甘やかされてしまってもいいのではないかという自分勝手で子供じみた考えに流されてしまった。
アルバに釣り合う大人を目指すロシナンテをこうやって簡単に駄目にしてしまうアルバは本当にずるい大人である。

「その……少し、欲しいものがあって」
「おっ、おねだりか?珍しいなァ」

オジサン先生の薄給で買えるもんならいくらでも買ってやるぞとなぜかキラキラ目を輝かせはじめたアルバに「ネ」と最初の一文字まで口にして「ネクタイ、を」と軌道修正したのはすんでのところでドフラミンゴのあのちゃらけた格好が頭をよぎったからだ。
アルバからネックレスを貰ったとして仕事の最中にあんなふうに見せびらかすなど、根が真面目なロシナンテには考えられないし考えたくもない。

「ネクタイ?そんなのでいいのか?薄給とは言ったけどリボ払いっていう魔法もあるし、もっと高いものでもいいんだぞ?」
「なら七本ください」
「日替わり……だと……?」

なんでそんなにネクタイにこだわるんだと困惑しつつ、それでもすぐに「みんなのロシナンテ先生を独占できるみたいで気分いいなァ」と鼻歌を歌い出したアルバはやはりロシナンテを甘やかすのが異常に上手い。
後に学校でネクタイを意識するたび妙な気分になってしまうという困った事態に陥るとはつゆ知らず、ロシナンテはアルバの『首輪』に思いを馳せてうっとりとした笑みを浮かべるのだった。