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寂れた裏路地に看板を掲げている本屋からなにやら鼻歌まじりで現れた男をすれ違いざま抱えあげて船を目指す。
誰だ食事できる場所や景色のいいデートスポット中心に探せなんて言った馬鹿……ペンギンだな、後でシメる。
おれみたいな人相の悪い大男一人、どれだけ奇異の目で見られたことか。

「ちょっと状況が理解できねェんだけどなんでジャンバールに担がれて運ばれてんの?もう帰るつもりだったし楽でいいんだけど、なんか急ぎ?」
「おれも詳しくは知らん」

むしろペンギンから急いで捕獲して連行しろと伝えられただけなので本人に理由を聞こうと思っていたのだ。
お前が知らないならおれにわかるはずもない。

「船長の機嫌があまり良くないらしいが」

クルーになって間もないおれでも気づくほどあからさまに、トラファルガー・ローはこの男を好いている。
とはいえ単独行動を許さないほど束縛しているわけではないため、なにか心当たりはないのかと問うと、肩に担いだ男の雰囲気が急激に張り詰めたものに変化した。

「船長は本当におれのこと、」

小さな声は風に紛れて最後まで聞き取れなかったが、おそらくは『おれのこと好きなんだから』とかそういう括られ方だったのだろう。
いくら鈍感だなんだと言われている男でもあんなに分かりやすい好意を間違うはずがない。
だから多分、きっと『おれのこと嫌いなんだな』なんて言葉は聞き間違いだ。
未だに抜けきらない奴隷時代の卑屈な癖を見つけてはときに殴りつけてでも正そうとしてくれるこの男がそこまで鈍感だとは思えなかった。

それが買いかぶりだと知ることになるのは僅か数分後。
男はやはり、鈍感だったのだ。