「あの野郎ついにやりやがった…」 昨日買い出しから帰ってきたあと妙にテンションが高かったし、何かあったのかと尋ねても口を割ろうとしなかったから嫌な予感はしてた。 できれば外れてほしかったが、生憎おれの勘は鋭いほうなのだ。 もうだめだと思いつつも諦めきれず床や荷物の隙間を覗きこもうとしたそのとき。 「おいペンギン、なにして」 「うわーーー!!!」 開いた扉の向こうから、一番見られちゃいけない人に見られてしまった。 船長、タイミング悪すぎです。 船長の視線の先には『なにもない』鈍感馬鹿の机。 冷や汗がたらりと背中を流れる。 「……ここにあった指輪は、どこへいった?」 そう、指輪。 指輪が、ないのだ。 以前から奴が大事にしていた、馬鹿でかいルビーのついた金の指輪。 大切なものなら鍵のついた場所にしまっとけと言うと、見えるところに置くのがいいんだと笑っていた。 「盗まれても知らねェぞ」 「信用してるからいいんだよ」 そんなふうに答えておいて後から恥ずかしくなったのか、照れ隠しに勢いよく抱きつかれ船長からそれはもう恐ろしい視線をいただいたことをよく憶えている。 あのとき奴はよりにもよって、船長の見ている前でこう言ったのだ。 この指輪、いつか好きな人に渡してェんだ、と。 「つなぎが揃ってるな……私服で行動してんのか」 指輪持って、私服で、一人きりで街に。 客観的に見て完全にアウトだ。 何やってんだよ、もう。 棚を漁ってつなぎの枚数を確認した船長がおれを振り返る。 無表情。 こわい。 「探し出して、連れてこい」 こわい。 |