己の感情を嫌悪されて然るべきものとして隠した時点で現実は理解していたはずだ。 アルバはサカズキの手には入らない。 いつか、否、もしかすると既に、相応しい誰かとそういった関係になっていてもおかしくはないのだ。 それを今更、眼前に突き付けられたからといって何を動揺することがあるのか。 そう言い聞かせるように考えてみても込み上げる吐き気は一向におさまらない。 控えめであったにも関わらず渋い茶を飲み干してもまだ口に残る甘い、甘い味。 自分で買ったときとは明らかに違って感じるその味の理由がアルバの『特別』を意識してのことだと理解して、理解したが故に聞いてしまった事実が、どうしても、どうしようもなく耐えがたかった。 女と会ったついでか、あるいは女に会うための口実か。 アルバにとってあの茶菓子はその程度のものだったのだろう。 しかしサカズキにとっては違ったのだ。 アルバの『特別』の一端だと思っていたからこそ失いたくなくて、だから、たかが菓子の一つや二つに一喜一憂して。 「…………なんじゃァ、」 ぽつりと漏れた言葉が表していたのは呆れか、怒りか、悲しみか。 いずれにせよ強く思うのは「知りたくなかった」という、ただそれだけだ。 サカズキも足を運んだ際、あの店の店員とは顔を合わせている。 美しい女だった。 サカズキの茶菓子をわざわざ自ら買い求めていた理由も、香水が以前使っていた柑橘系の匂いに戻った理由も。 こんなことなら、何も知りたくはなかった。 |