厚手の手袋に包まれた両手をこすり合わせながら「もう寒さなんて忘れちまったんじゃないか」と笑うアルバに「そんなわけないでしょうや」と返して白い息を吐いた。 確かに今日のような息が白くなるという程度の寒さは氷結人間たるクザンにとって春の陽気と何ら変わりない。 なんなら能力を使いやすくなるぶん春より冬の方が過ごしやすいくらいだ。 しかしヒエヒエの実を食べてからというもの以前のように切迫して感じることのなくなった寒さという感覚は、それでもいつだってクザンの身近にあった。 一人きりの部屋では寒気が止まらないしアルバが傍にいると温もりを求めて少しでも近づきたくなる。 アルバが女と二人で楽し気に話しているところを見るたびに指先が悴んで動かなくなるのに、いくら楽しそうであったとしてもクザンに気づいた途端さっさと話を切り上げて駆け寄ってくる姿にはまるでしもやけになったみたいに手がじんじん疼く。 朝も夜もなく毎日がそんな状態なのに、クザンが寒さを忘れるなどありえない話だ。 「へえ、氷結人間でも冬は寒いもんなのか」 「あー……まあ、うん」 別に冬だから、というわけではないのだがクザンの心の内など知る由もないアルバに年がら年中続く寒さの理由を説明するわけにもいかない。 そう思って適当に言葉を濁すと、一体何が嬉しかったのか、アルバは「そうかそうか」と満面の笑みで数度頷いた。 「寒いならしかたねェよなァ……ほら」 何が仕方ないのかとぼんやり考えているうちにごそごそと脱いだ手袋の片割れをぽんと投げて寄越される。 突然のアルバの行動に困惑していると「なにやってんだよ」と不満そうに、しかし楽しげに手ずから片手袋を装着させられてクザンは一層困惑を深くした。 内側に残ったアルバの温もりをじわりと伝えてくる厚手の手袋は、片方とはいえつけているのといないのでは雲泥の差だ。 それこそ寒がりなアルバには死活問題であろうほどに。 「寒いんだろ。貸してやるから付けとけ」 「アルバこそ寒いんじゃねェの?おれに渡しちまってもいいわけ?」 「ああ、こっちはこうするからいいんだよ」 戸惑いながら尋ねた直後当然のように手袋をしたのとは逆側の手を取られ、クザンはグッと息を詰まらせた。 手袋の共有に加えてこの、手をつなぐという行為。 クザンの気持ちも知らないでこういう馬鹿げたことを簡単に仕出かすアルバが、そしてそんなアルバに毎度うっかりときめいてしまう自分がクザンは憎たらしくてしかたなかった。 元より嫌という程知ってはいたけれど改めて思う。 アルバは本当に、本当にタチの悪い男だ。 「……男同士でなにやってんのよ」 「寒いからな!しかたねェ!」 笑い皺をこさえてニカリと笑うアルバに温かいだろうと問われてしばらく言葉に迷ったあと、諦めたように「まあね」と返す。 温かいどころかむしろ熱くてたまらないぐらいだ。 アルバの手はいつだって、例えクザンが氷になっていても簡単に火傷してしまいそうなほどに熱い。 もう寒くないと、お前の手は熱いと言ってもアルバは手を離さずにいてくれるだろうか。 そう自問し、クザンはすぐに小さく首を振った。 愚問だ。 『寒いから』以外の理由がない以上、問題が解消されれば続ける意味もない。 クザンにとって特別な行為もアルバにとってはその程度のものなのである。 「おいクザン、ヒエヒエすんな。いたずらっ子かお前は」 「……嫌なら放せば?」 「あ?放さねェよ。嫌じゃねェし」 ささくれだった気分に思わず漏れ出た冷気ごとぎゅうと手を握りこみながら「でも寒いからヒエヒエはやめろ」と横暴を吐かれ、クザンはこいつもう嫌だと足元に作り出された薄氷を踏みつけた。 |