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アルバは医者だから、おれが病気だからそんなこと言うんだろ。でも、アルバが言ったんじゃねェか。片思いじゃなきゃ発症しないって。両想いになったら治るって。自分には治せねェって。なんで今更そんな嘘つくんだよ。なんで。騙すならもっと上手くやってくれよ。おれは、もう知ってるよ、知ってたんだよ、アルバに愛されてないことなんて。それでも、家族の延長だったとしても、付き合ってもらえて、嬉しかったんだ。ちょっとは特別なんだって、だから、寂しくても我慢したのに。恥ずかしいことだって、いっぱい頑張ったのに。なんで。アルバ、なあ、なんで。

堪え切れない嗚咽と花を吐きながら途切れ途切れにそう訴えるエースに改めて自分の察しの悪さを実感する。
医者としての仕事を優先することで寂しい思いをさせているのはわかっていたが、素直な奴だから何かしらの不満があれば言ってくれるだろうと思っていた。
それがそもそもの間違いだったのだ。
愛されている実感のない、愛されたいと願う相手に我儘なんて言えるはずがない。
そうして付き合ってもなお片想いだと思い込み、愛されるために自分を殺し続けた結果が今回の花吐き病だ。
情けねェな、というジジイの言葉が脳裏で再生される。
全く持ってその通りだ。
本当に、不甲斐ない。

「……なんで、アルバが泣くんだよ」

血の気が失せた頬とは対照的に赤く腫れあがった目を瞬かせておれを見つめるエースの手を取り、流れる涙を無視したまま唇を動かす。
おそらく今はまだ言っても信用してもらえないだろうが、それでも、これだけはどうしても知っておいてほしかった。

「おれは、病気のやつにしろ怪我してるやつにしろ、患者には優しくしないことにしてる」

突然の話題転換にぽかんとしているエースに「惚れられると面倒だろう」と身もふたもない説明をすると、酸欠で頭がまわっていないのか、困惑するように小さく首が捻られる。
難しい話ではない。
弱っている人間は総じて支えを求めるものだ。
故に患者は、親身になってくれる医者に対して擬似的な恋愛感情を抱きやすくなる。
初めて会った時エースはオヤジとの戦闘でぼろぼろだった。
全身傷だらけで、常に神経をとがらせて。
そんな状態のエースにおれがひたすら優しく接し続けた理由は一つ。
医者だから、なんてお綺麗な献身の精神とは程遠い最低の理由だ。

「一目惚れだった。患者には優しくしないってルールを曲げてお前に優しくしたのは、弱ってるところに漬け込んででも手に入れたかったからだ。さっきおれが家族愛の延長で付き合ったみたいに言ってたけど、おれは最初からお前のこと恋愛対象にしか見てないんだよ、エース」

おれの無様な告白を意味がわからないといったふうな顔で聞いていたエースが、しばらくの沈黙の後「嘘だ」と呟いた。
わかってはいたが一刀両断とは。
完治には相当時間がかかりそうである。

「嘘じゃない。おれはエースが好きだ」
「嘘だ……だっておれ、花吐き病、な、治せないって」
「勘違いだった。おれなら治せる」
「う、うそだ!」
「嘘じゃない。治せる。エースがおれを信じてくれたらすぐにでも治る」

うそだぁ、と混乱して号泣しだしたエースが涙と一緒に赤い花びらをはらはら落としていく。
今までが今までだから信じてもらえないのも仕方がない。
しかしエースを治せるのはおれだけだ。
おれは、エースを治せるのだ。
エースが吐き出す鮮やかな花を見ても、もう朝のような絶望は感じなかった。

「さあ、エース。おれと両想いを始めよう」

我ながら臭い台詞に笑いを漏らすとエースの唇についた花びらを摘み、舌にのせてごくりと飲み込む。
エースがおれを想って吐きだした花弁は涙で塩辛く、しかしどこか甘い味がした。