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もう私用で訪れることはないだろうと思っていたエースの部屋。
その扉を開いた瞬間、目に飛び込んできたのは赤い花が絨毯のように広がった床と、そこに座り込んで虚ろな表情で静かに涙を流すエースの姿だった。
座り込んでいるのはおれがここを去った際「まって」と弱々しい声でもって追い縋られた、正にその場所だ。
しばらく一人で考えたほうがいいと知ったような口で誤魔化して伸ばされた手を取ることなく逃げるように部屋を出たおれの背中を、エースはどんな気持ちで眺めていたのだろう。

「……エース」

後悔と罪悪感に押しつぶされそうになりながら、それでもゆっくりとエースに近づき、しゃがみ込んで視線を合わせる。
すると視界に入ったことでようやくおれを認識したのか、目を見開いて肩を跳ね上げたエースがヒュッと息を飲んで口と喉元を押さえた。
もう反射的に咳をするだけの体力も気力もないらしい。
腹を波打たせながら苦し気に数度嘔吐いて花を吐きだしたエースの顔は数時間前からは考えられないほど憔悴していた。

「アルバ……アルバ、なんで……アルバ、」

アルバ、なんで。
時折身体を折り曲げて花を吐きながら壊れたようにそう繰り返すエース。
エースがおれ以外の誰かを好いているのか、それともおれが甲斐なしのクソ野郎だったのか。
逃げることなく現実に目を向けていれば、答えはこんなに簡単に見つかったのに。

「エース、ごめんな」

傷つけてごめん、好きだ、愛してる。
眉を寄せ、泣きそうになりながら伝えた言葉にエースがくしゃりと顔を歪ませて花を吐いた。
ぼとぼとと喀血するように床に落ちていく、赤い花びら。

「……うそつき」

花を吐き過ぎて喉が痛んだのだろう。
掠れた声でそう呟いたエースのそばかすを新しい涙が濡らしていく。
完治の証は白銀の百合。
赤いままのそれは、おれたちの想いが通じ合っていないという何よりの証拠だった。