「おれ、昔サカズキのこと本当に可愛げのない奴だと思ってたんだけど」 湯船のふちに腕をかけてぐでりと弛緩した身体を預けていたサカズキは突拍子もなく出された己の話題に顔をあげた。 それだけの動作が酷く億劫だ。 熱い湯は嫌いではないが、何度経験してもこの倦怠感に慣れることはない。 「……なんじゃァ、いきなり」 「いや、今日帰ってきたときにさァ、すっごい顔して黙っておれのこと睨むお前見て思い出した」 サカズキって精神的に疲れてておれに構ってほしいときにそうする癖があるだろう。 しみじみと告げられた言葉におもわず眉間のしわが深くなる。 いまこうして普段は別々である入浴を一緒にして、髪を洗われたり湯船で肌を撫でられたりに文句一つ言っていない以上反論の余地がない。 一つ間違いがあるとすれば、上手く言葉にして甘えることができないサカズキのそれは、癖ではなく故意であるということだけだ。 ほんの少しいたたまれなくなって「それがどうした」と開き直るとアルバがちゃぷりと湯を手で掬ってサカズキの肩にかけた。 湯に浸かれない部分が冷えないようにという小さな気遣いが張り詰めた神経を和らげる。 このような癒しをサカズキが口にして求めずとも与えられるようになったのは長い付き合いに反してごく最近のこと。 そのあまりの心地よさに溺れてしまいそうな気がしてサカズキはふちを掴む手に、入らない力を込めなおした。 「記憶を遡ってるとその癖って、随分昔からなんだよなァ」 ちゃぷり、ちゃぷり。 刺青の上を滑る湯を楽しむように幾度か行為が繰り返された後、硬くて大きな手が肌を包んだ。 普段とは逆転した体温を楽しむ前に、サカズキは恋人の言いたいことに気付いて瞼を閉じた。 出会って数年のうちにサカズキがアルバを睨むようになったということと、ここにきてようやくアルバが理解したサカズキの癖を照らし合わせれば自ずとわかる事実。 「お前に可愛げがなかったんじゃなくておれが気付かなかっただけだった」 「…………ふん」 鈍感な男だと照れを隠して顔を歪めると蕩けるような笑みが返ってきた。 「その鈍感な男をずっと好きでいたお前は存外可愛い男だよ」 重ねられた唇から唾液と共に甘い言葉を吹き込まれる。 反論する気力は、湯の中に溶けて消えた。 |