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本当に誰でもいいみてェだな節操なしのホモ野郎め。
甲板に出てすぐ目に飛び込んできた光景にペンギンは我知らず手に持った新聞をぐしゃりと握りつぶした。
視線の先にはシャチの背中に覆いかぶさるようにしてじゃれつくアルバの姿。
シャチは気色悪いと嫌がっているがアルバは気にした様子もなくニヤニヤと笑っている。
少し前なら、シャチのいる場所にはペンギンがいたはずだった。
アルバに抱き締められるのも身体をまさぐられるのも「気色悪いやめろ」と悪態をつくのも全部ペンギンの役割のはずだったのだ。
しかしそれは数日前、アルバが唇を重ねてきたことによって終わりをつげた。
いつも通り軽いノリの、いつにない行動に混乱して突き飛ばして罵って逃げだしたその日からアルバがペンギンに構うことはなくなった。
ペンギンが日光浴していたってベポにひっついて昼寝するし、食事のとき混雑している食堂内で偶然ペンギンの隣が空いていてもスルーして遠い席を目指す。
命知らずにも船長に抱きついてバラされたのは昨日のことだ。
一応、酒に酔ってふらついたとか理由はあったらしいが、傍目から見ればわざとにしか見えなかった。
扉の前で立ちすくむペンギンに気付かないまま、アルバがシャチのキャスケットを奪い潮風で痛んだ髪を掻きまわす。
以前ペンギンも同じことをされた事がある。
帽子を取られて頭を撫でられ耳元でくすくすと笑う声がくすぐったくて髪を食まれたあたりで限界がきて振り払ってもやっぱりアルバは笑っていて。
でもそれも、別に誰でもいいことなんだ。
相手がペンギンでなくたってアルバは楽しそうで、きっとあのキスにだって意味はない。
なら、キスなんてされたくなかった。
当然である。
ペンギンはノーマルな嗜好の持ち主でいくら男所帯とはいえ自分と同じモノのついた相手とどうこうなんて考えただけで吐き気がする。
だからキスされて怒ったし逃げだした。
そのはずだ。
だから今、あのキスさえされていなければアルバの隣にいるのは自分だったはずなのになんて、意味のないキスのためにアルバと過ごす時間を失ったんじゃ得たものと無くしたものの価値が釣り合っていないなんて思ってしまうのは気の迷いのはずで、シャチの髪に近づくアルバの唇に苛立って後ろから思い切り蹴り飛ばすこの行動だって自分の気持ちがどうこうじゃなく食いモノにされる仲間に同情してのことなのだ。
そういうことにしなければ、あまりにも報われない。

「なにすんだよペンギン!」
「助けてやったんだろうが。感謝しろ」

アルバの背中を蹴ったことにより半ばのしかかられていたシャチがつんのめって、恨みがましい目を向けてくる。
とっさのことにシャチが転ばないよう腰にまわされたアルバの腕が気にくわない。
いくらそこに支える以外の目的がないとはいえ同性愛者を公言している相手に対し警戒心の欠片もないシャチに苦々しい感情が湧いてきて、それを塗り替えるように呆れた表情をつくった。

「そいつ相手に気ィ緩めてると唇もってかれるぞ」

はん、と鼻で笑ってそう言ってやるとシャチが青ざめた顔で口を覆った。
一番にするのが距離をとることでないあたり優しい奴だとは思うがイラっとする。
いいからさっさと、アルバから離れろ。

「おっま……おいアルバ、さすがにそれはないぞ!許容範囲外だ!」
「そんなに身構えんなよ、俺だって相手くらい選ぶ。大体好きでもない奴にキスなんかするか」

一瞬、アルバの視線が帽子の影で隠れたペンギンの目を捉えた。
シャチの頭にキャスケットを返してその上からチョップを喰らわせたアルバが身体を強張らせたペンギンへ近づく。

「…………今の、どういう」

相手は選ぶ?好きでもない奴にキスしない?
嘘付けお前、おれにキスしたじゃないか。
拒んだらつまらない玩具だとでもいうように呆気なく放り出したくせに。

「自分で考えろ馬ァ鹿」

通り過ぎざまに帽子の、ペンギンの名前が刺しゅうされた部分をはたかれた。
じんじんとした痛みと熱が額から脳に伝播する。
おかしい、どういうことだ、おれが考えたら都合よくとっちまうだろう。
そういうのはお前の口から聞かせろ馬鹿。
存在を忘れかけていた新聞が再度手の中で音を立てる。
汗のせいでじとりと湿ったそれを海に放り投げて、ペンギンはアルバの背を追った。