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「なあサカズキ、お前はきっとこれからも甘さや優しさや、お前の正義に不要だと思うものをどんどん切り捨てていくだろう?なら、それをおれにくれないか」

情けが弱さに繋がるならこの島に全部置いていけばいい。
おれが失くさないよう持っておいて次に会うとき返してやるから。
子供に寝物語を聞かせるようにそう言ってサカズキの目を覗き込むアルバに、サカズキは「今更なにを言うちょるんです」と鼻を鳴らした。
全くもって今更だ。
サカズキはずっと以前より甘さも優しさも身の内に持ってはいない。
そんなものを抱えたままで苛烈な道を進むことなど出来るはずもないのだから、ある意味当然のことである。

「わしの弱さはとうの昔にあんたに預けとります……じゃけェ、わしが泣くのも甘えるのも、全部アルバさんにだけじゃ」

長年悟られないよう隠し続けていたからアルバはあの日までサカズキが己に執着しているとは想像だにしなかっただろう。
しかし真実はそうなのだ。
サカズキにはずっと、ずっと前からアルバだけだった。
捨てられればサカズキには悪に対する憎悪しか残らない。
それほどまでに、アルバはサカズキという『人間』にとっての全てだった。

「そうか……ああ、そうか」

肩口へ頭を擦りつけるサカズキにアルバがきょとりと目を見開いたあとじわじわと顔を笑み崩し、とうとう耐えかねたように噴き出した。
おれもお前だけだよと笑うアルバにつられてサカズキも頬を緩める。
アルバと自分、二人きりのこの島には正義も悪も存在しない。
閉じた瞼の向こうにはサカズキの求める全てが揃った、満ち足りた世界が広がっていた。