「くすぐったいから触るんじゃねェよォ」 他のやつが触ったってなにも言わないくせにおれにだけいつもそう言って冷たい視線を向けてくるボルサリーノは、早い話おれのことを嫌っているんだろう。 そのくらいはおれの馬鹿な頭でも理解できたがだからといって向こうの望み通り離れてやるのも癪で、無神経なふりでスキンシップを計っては伸ばした手を叩き落とされ続けて十云年。 年々おれへの警戒心を強め続けているボルサリーノが珍しく無防備な様子で転寝なんてしていたものだから、おれはその手にガシャンと海楼石の錠をはめ、飛び起きて何事かと目を白黒させるボルサリーノににんまりと笑いかけると状況を察して抵抗しようとする身体を床に押し倒した。 ――そうして脇やら腹やら、一般的にくすぐったいと感じられる部分を長時間にわたって触りまくったことは認めよう。 だがそれはあくまでスーツの上からであり、触り方だって指で擽ったり軽く揉んだりした程度で、つまり性感を与えるような行為は一切していない。 していない、はずなのだが、それならどうしてボルサリーノはこんな状態になってしまっているのだろうか。 常になく鋭い声でやめろ嫌だと騒いでいたのがようやくいつものゆったりとした口調に戻ったと思っていたのに「もぉ…やめてくれよォ」と小さく懇願するボルサリーノの顔にふと視線を向けてみれば真っ赤な肌に涙で潤んだ瞳、歯の根が噛みあわないでいる半開きの唇というとんでもなくエロい状態になっていた。 いや、それだけならまだくすぐったいのを我慢していたせいだと解釈できないこともない。 しかし続けて視線を向けてしまったボルサリーノのそこは誤魔化しようもないほど窮屈そうに布を押し上げていて。 ええ、と思わず戸惑いの声をあげてしまったおれにボルサリーノがくしゃりと顔を歪ませる。 目のふちに溜まっていた涙がぼろりと頬に転げ落ちた。 「ッだから、やめろって……わ、わっしは、だから、触られたく、っい、いやだった、のにっ……!」 「な、泣くなよ、おい」 半身を抱き起こし落ち着かせようと背中をさする手の動きに疚しいところなどありはしないのにボルサリーノはそんなものにすら反応し、腕の中でビクビクと小さく震える。 まるで情事の最中のようだ。 こんな接触でよがっていては、もし素肌に直接、そういうつもりで触れたときには一体どうなってしまうのだろう。 そう考えて知らぬ間に飲み込んだ唾が予想外にゴクリと大きな音を立て、おれは慌てて背中から手を離した。 宙を彷徨う手が熱を帯びてじんじんと痺れている。 ボルサリーノにあてられたのか、馬鹿みたいに顔が熱い。 「あー、……ていうか、お前、おれに触られたがらないのって、おれのこと嫌いだからじゃねェの?」 「き、嫌い…な、わけ……わっしは、」 気まずさに耐えかねてしどろもどろ尋ねると海楼石に封じられた手で顔を隠したボルサリーノが時折鼻を啜りながら途切れ途切れ、言い訳をするように話をはじめた。 元々本当にくすぐったがりであること、他の人間に触られても多少不快な程度なのに昔からなぜかおれ相手ではこうなってしまうこと、気持ち悪いと思われたくなくて、それで必死に触れられるのを避けていたこと。 聞けば聞くほどこれまで悪い意味でしかなかった『自分だけ』という括りにもっと別の、特別な想いを感じてむず痒くなる。 自分でも不思議なことに、ボルサリーノの言う「気持ち悪い」というような感情は一切なかった。 いや、むしろこれは。 「……なあボルサリーノ、あのさァ、その……キス、してもいいか?」 「な、」 消え入るような声で「……なんでそうなるんだよォ」と呟いたボルサリーノだったが顔を覆っていた腕を外しても文句はなかったので別に嫌がってはいないらしい。 最初から全部教えてくれていれば人前で触ろうとなんて絶対にしなかっただろう。 こんなボルサリーノ、他の奴には絶対に見せたくない。 そうぼんやり考えながら、おれは熱に浮かされた表情でこちらを見つめるボルサリーノにそっと顔を近づけた。 |