ボルサリーノに怒られた。 理由は簡単、恋人として入り浸っているうちにボルサリーノの家を私物で侵食してしまっていたのだ。 「帰ってくるまでに片付いてなきゃ二度と家に入れないからねェ〜」と笑顔で脅されたためさっさと何とかしなければならないのだが、さて、どうしたものか。 「片付け……片付け、なァ」 実を言うと物に対する執着が極端に薄いらしいおれは昔から邪魔になったら片っ端から捨てていくという大雑把なことばかりしてきたせいか増えた物の片付け方を全く知らないのである。 これまではおれ一人だったからそんな生き方でも問題はなかった。 けれどしかし今は――どうなのだろう。 ボルサリーノは当初おれの私物が家に増えることを喜んでくれていたはずだ。 直接的な言葉はなかったけれど、おれが持ってきた服やらなんやらを見て少し恥ずかしそうに微笑んでいたことは知っている。 調子に乗って増やし過ぎたせいで怒られてしまったが、だからといってこれらを全部捨てるというのは何か違う気がした。 しかし必要か不必要かで分けるなら殆どが必要ない物で、じゃあ捨ててしまってもいいのかと首をひねっても答えは出ず。 悩み続けた挙句、結局は夕方を過ぎたあたりで手つかずのままボルサリーノが帰ってきてしまう可能性が高くなったため慌てて諸々の私物を全て袋にまとめるはめになった。 ボルサリーノのものだけになった家は清潔で広々としていて快適そうだし、少し寂しい気もするがこれで間違いはなかったのかもしれない。 兎にも角にも綺麗にはなったのだから、予想以上に増えた袋の山をゴミ捨て場に持っていくのは明日でもいいだろう。 そう思って達成感に息をついたそのときガチャリと鍵のまわる音がした。 ボルサリーノが帰ってきたのだ。 「ボルサリーノ、おかえり」 「オー、ただいまァ〜……袋がやけに多いけど片付け終わったのかァい?」 「ああ、それ全部捨てたら終了。ごめんな、迷惑かけて」 「片付けてくれたならいいよォ〜、わっしも言い過ぎたと思ってた、し、」 何の気なく、というふうに袋を持ち上げたボルサリーノがギシリと固まって袋の中身を凝視した。 ボルサリーノの私物やプレゼントされたものなんかはさすがに捨てていないのだが、なにかおかしなものでもあっただろうか。 「……パジャマ」 「え?ああ、まあ、使わないし」 泊まっていくことが多くなって買い足したものの、ほぼ毎回眠る前に致して裸もしくは下着のみの状態で眠ることになるため未だに新品同様。 家には必要分揃っているしわざわざ持って帰るのも面倒くさいから、別に捨ててしまっても構わないはずである。 「こっちの、なんで、食器まで」 「それも使わないから。残してても邪魔かなって」 これもまたあったほうがいいかな、なんてボルサリーノと話しをしてデートの最中に立ち寄った雑貨屋であれこれ言いつつ買ったはいいがほとんど使う機会がないまま放置されていたものだ。 なにせお互い仕事で遅くなる日は食堂で食べているし、休日はいつもレストランで食事をしている。 皿を使うのは酒のつまみを作ってつまむときくらいだから場所を取る茶碗やスープカップは置いておく必要ない……はず。 まずい、自分の判断にだんだん自信がもてなくなってきたぞ。 「ボルサリーノ、おれは、」 「ーー……捨てんのかァ?」 無表情で視線を袋に落としたままおれの言葉を遮りそう呟いたボルサリーノが震える唇で「わっしのことも、」と続けた瞬間頭の中に!と?が大量出現した。 捨てる? ボルサリーノを? そんな馬鹿な、だって、捨てられるとしたらおれの方だろう!? 混乱しておろおろしているうちに瞬きを忘れたように見開かれていたボルサリーノの目に涙がたまっていく。 なんだかもう、本当に訳がわからない。 「確かに、キツい言い方しちまったけどもォ〜……わっしが、可愛げがないのなんて、そんなの今更だろォ〜……!」 こんなことで捨てるなんて酷いと涙ながらに詰りつつ手近にあるゴミ袋を投げつけてくるボルサリーノにお前は可愛いし捨てるわけがないと力説するも全く信じてもらえず、別れるつもりはないという意思表示として投げつけられたゴミ袋を開いて中のものを取り出したら「散らかすんじゃねェよォ〜!!!」とキレられた。 理不尽だと思うけど可愛いから許す。 とりあえず、ボルサリーノは泣き止んだらおれに片付けの方法を教えてくれ。 |