「なァ戦桃丸、黄猿殿は酔うといつもああなのか?」 「ああ、ってなんだよ」 オジキがなにかやったのかと怪訝そうに首を傾げる戦桃丸におれは疑問符を浮かべながら眉を寄せた。 形式上質問ではあったものの、黄猿殿と親しい戦桃丸なら酒の席を共にする機会も多いだろうし間を置くことなく肯定が返ってくるに違いないと勝手に思い込んでいたのである。 だがもし戦桃丸が黄猿殿の酔い方を知っているなら"ああ"で通じないのはおかしい。 なにしろ黄猿殿の酔い方は一度でも経験していればある程度ぼかした言い方をしたって察しがつくくらいにはたちが悪いのだ。 戦桃丸に話が通じないのは予想外だったが、知らないのならおれの口から言いふらすような真似はしない方がいいだろう。 そう判断して「いつもよりもっとゆっくりした喋り方になるとか、そんな感じだ」と適当に誤魔化したおれの言葉に納得してくれたらしい戦桃丸は「そりゃあ面倒だな」と大きく頷き、そして直後、大変な爆弾を投下した。 「それにしても、あのオジキを酔わせるなんて一体どんな手使ったんだ?わいもかなり強いほうだがオジキはワクだからなァ……どんだけ飲ませても潰せた試しがねェ」 「は……ちょ、ちょっと待て!黄猿殿が、ワク!?はあ!?本当に!?」 「本当も何も、酔わせたなら知ってるだろ?」 大将連中との飲み比べでも負けたことねェよあの人、と何でもないことのように言われておれは思わず頭を抱えた。 二、三杯の酒で酔ってどろどろに溶けきったチョコレートみたいな甘ったるい声で愛を囁き、擦り寄って抱き付いてたまに頬にキスまでして、最終的には肩だとか膝だとかに陣取って穏やかな眠りにつく黄猿殿が、ワク? 翌日になれば「どうも酔うと記憶が飛んじまうみたいでねェ〜」と御座なりに謝って、そうしたらすぐいつも通りの飄々とした態度に戻ってしまう黄猿殿がワクだと? じゃああれは、あの甘えた態度や切なげな表情はつまり全部、 「据え膳……」 「おいどうしたアルバ、大丈夫か?」 心配そうな戦桃丸の声に頭を抱えたまま「もっと早くお前に話せばよかった」と呟くと落ち込んでいるのは伝わったのか慰めるように背中をぽんぽん叩かれた。 相手は酔っ払いだからと思って必死に我慢してたおれの理性っていったい。 |