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なんとなくそういう雰囲気になって友人の一線を越え、ベッドの中で真っ裸のおれが「付き合うか」と聞いたら同じく真っ裸でなにやら呆然としていたボルサリーノが「ああ、うん」と曖昧に頷いて。
そんな好いた惚れたという当たり前の感情すら伝えないような始まり方だったから、翌日初めての同伴出勤なるものをした際いつもの間の伸びた調子で「仕事に私情は持ち込まないようにしないとねェ」と呟いているのを聞いたときには納得すると同時に大層落ち込んでしまった。
お互い多忙で休日などのプライベートな時間が重なることなんて滅多にないのに職場で私情を隠すというのは恋人として接する気はないというのと同義、つまりボルサリーノのそれは恋人になったその日から既に自然消滅を狙っているのかと疑いたくなるほど酷い言い草だったのである。
そして流されるまま頷いたことを後悔しているのか、乗り気なのは自分だけかとへこみ、そっちがその気ならと意地になってこれまで通りに接し早ひと月が経過した。
暫定の恋人であるボルサリーノはというと、素っ気なくされるのかと思いきやあの日から毎日のように書類の受け渡しや会議の開始時刻の変更など下に任せればいい雑務にかこつけせっせとおれの執務室へ通っている。
意味がわからない。
部下に任せるより自分で持ってきた方が速いからというわりに急ぎの案件なのかと聞いても言葉を濁すし、用が終っても居座ろうとするし。
今だってわざわざ調整して合わせたんだろう休憩で昼メシ食いながら「アルバは全然変わらないねェ〜」とか言って寂しそうにしてるし。
本当に意味がわからない。
健気すぎるだろ。
私情を持ち込まないようにとかいうアレはどうしたんだ。
いや、なんというか、ボルサリーノの呟きは多分おれに向けてのものじゃなくて浮かれた自分への戒めだったんだろうな、というのは最近になってようやく理解しはじめたのだが、どうするべきなんだこれ。
タガが外れたみたいにおれへの好意駄々漏れてるボルサリーノが可愛すぎるし態度を崩すタイミングがまったくわからないんだが。
というか、崩していいのか?
ボルサリーノの戒めが全然機能してないのにおれまで好意全開にしたらただのバカップルになる未来しか見えないぞ。

そんなことを考えながら黙々とかつ丼定食を食っていると半分ほど食べたあたりでもどかしそうに箸を噛んでいたボルサリーノが「わっしら、付き合ってるんだろォ…?」と言ってこちらを窺ってきた。
クソ可愛い。
なんだこの生き物。
とりあえず次に休みが重なったときには絶対でろんでろんになるまで甘やかすと決意した。
もう疑う余地なんてどこにもないくらい甘やかす。
風呂にも入れるしキスで起こすし朝食だっておれが作る。
絶対の絶対だ。
それまではこの、おれに好かれてるのか確信が持てなくてちょっと不安そうなボルサリーノを堪能しよう。
意地の悪い恋人で申し訳ないが埋め合わせはするから許してほしいと心の中で頭を下げ、おれは少し唇を尖らせたボルサリーノの口にとんかつを一切れ突っ込んだ。