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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「なんじゃァ……?」
「饅頭です」
「そんなこたァ聞いちょらんわ」

おれの簡潔な答えに胡乱げに目を眇めたサカズキ大将の視線の先には、ひしめき合う煎餅の間にひっそり存在する小さな饅頭が一つ。
そう、あの問答の日を境に茶請けに出すのをやめていた甘味である。
尻尾への罪悪感に耐えかねて和菓子屋に足を向けたおれを意志薄弱とは言わないでほしい。
悪いのは全て、おれに饅頭を出す言い訳を与えてしまったクザン大将なのだ。

「昨夜遅くに大将青キジが『散歩』から戻られたそうですので、本日は適度に糖分摂取されたほうがよろしいかと」

決して下心を覗かせないよう神妙にそう告げると器用に片眉を上げた大将が地を這うような低い声で「あのアホタレが」と悪態をついた。
クザン大将が『散歩』という名の逃避行から帰還したということは青雉の執務室で凍っていた書類が氷解して一気にこちらへ雪崩れこんでくるということに他ならないだから、言葉が荒れるのもしかたないだろう。
とにかく、あちらさんが朝一で処理を始めたとして午後からの赤犬の執務室が地獄絵図になるのは想像に易い。
「不要ならお下げしますが」と口にすると、しばらくして苦々しい表情のサカズキ大将が饅頭を手に取った。
饅頭ひとつの糖分など書類数枚で吹っ飛びそうな気はするが、それでもないよりマシと判断されたようだ。

「……なにを見ちょる」
「いいえ、何も。茶はいかがです?」

ぱた、ぱた、と控えめに揺れる尻尾の音と共に無言で湯呑が差し出される。
饅頭に合わせて入れた渋くて熱い茶がゆらゆらと湯気を立てて大きな湯呑を満たしていった。