嫌な予感は外れてくれなかった。 あの日を境にアルバとの距離が急激に遠のきはじめたのである。 目が合っても話しかけられるどころか近寄ってすら来ず、仕事中に交わされる言葉も淡々としていてサカズキに対する親しみなどどこを探しても見当たらない。 初めこそ何か急ぎの用があるのかもしれないという拙い言い訳で現実から目を背けていられたが、まるでアルバがサカズキに構い続けていたこの一年など存在しなかったとでもいうような態度をそこかしこで見せつけられればそれも長くは続かなかった。 アルバがわざわざ店まで足を運んで選んでいたという和菓子の代わりに一年程前までの茶請けの定番だった煎餅が出されるようになり、普通の人間なら舌を火傷しそうなほど熱く淹れられていた渋めの茶も適温で甘みのある、一般的に言って美味いものに変わった。 鼻を掠める匂いは以前に使用していた柑橘系の香水だ。 あの海の匂いがする香水を使い始める直前、別れた恋人が柑橘系の香りを好んでいたのだと言っていたのを覚えている。 どうしてその香水をいまになってまた使い始めたのか、なにか理由があるのか、それともただの気まぐれなのか。 アルバが何も話さないからサカズキにはそれすらわからない。 ふと窓の外を歩くアルバと視線が重なり、瞬間、根拠のない期待が胸に滲む。 しかしその目が以前のように柔らかい光を宿して細められることはなく、視線は数秒ののち自然な様子で逸らされた。 アルバの質問に素直に答えていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。 休日を利用して自ら買い求めた饅頭は間違いなくアルバが寄越していたものと同じはずなのに、なぜか砂を噛んでいるように味がしなかった。 |