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放任主義の親のせいで半ば孤児状態だったガキの頃、話に聞いて憧れていた口うるさい母親ってのはきっとこういう感じなのだろう。
理想と現実は違うってことだな。
四六時中同じ空間にいる存在としては最悪だ。
ロクなもんじゃない。

「レイリーってさァ、なんなの?なんでおれが何もしてないのにそんなにギャアギャア騒ぐの?ストレスたまるから止めてくんない?」
「お前が!何もしないからだろうが!ごろごろしてるだけならさっさと風呂に入ってこい!」

風呂場を指差して怒鳴るレイリーに眉を寄せて記憶を手繰る。
確か最後に入ったのは三日……いや四日前だったか?
どちらにせよロジャーよりマシなはずだ。
おれ毎日タオルで拭ってるし服も着替えてるし香水振ってるし。
ロジャーは一週間余裕で風呂入らねェ上にパンツも変えない。
あいつなんて船長でさえなければただの汚いおっさんだ、汚っさん。

「風呂に入らなくったって水かけて拭けば問題ねェだろ、女じゃあるまいし」
「それをするならなぜ風呂に入らんのだ……お前の真似をして見習いが水を被って風邪ひいたんだぞ!」

見習いっていうと、シャンクスとバギーか。
なにやってんだあいつら水浴びの真似するとかおれに憧れちゃってんの?
可愛いなよしさっそく見舞いに行ってやろう。

「待てアルバ、どこへ行く」
「おれのせいで風邪ひいてるんだろ?果物かなんか持ってって喰わせてくるわ」
「見舞いの前に風呂に」
「俺が風呂入ったらさァ、なんでか知らねェけど、レイリーも一緒に入ってくるだろ」

言葉を遮ってそれが風呂嫌いの理由だと言外に伝えるとレイリーが小さく息を飲んだ。
気まずそうに視線を逸らして顔を俯かせる。

「……私の、せいか」
「自覚があるならそうなんじゃねェの?」
「嫌がっているようには見えなかった」
「お前が人の感情に疎い性質だとは思わなかったよ、レイリー」

はん、と鼻で笑うとおれの腕を掴んでいた手がゆっくりと力を無くして落ちていく。
それを見るおれは、きっと冷たい表情をしているんだろう。
感情を押し殺すからそういう顔になるのだと教えてくれたのはレイリーだ。
悲しいなら泣けばいいし怒っているなら喚き散らせばいいと、そんなことでお前を嫌う奴なんていやしないと優しく抱きしめられたそのときからおれはレイリーのことをただの仲間だとは思えなくなってしまった。
おれはレイリーのことが好きで、そういう目で見ているというのに裸のお付き合いなんて拷問でしかない。
他の奴らが何日風呂に入らずにいようが臭くなってきたら適当に海に向かって蹴り飛ばすくせにおれにばかり構ってくるのだってそうだ。
同じ気持ちなんじゃないかと、誘われているんじゃないかと勘違いしそうになる。
我慢して苦しむのも期待して傷つくのも嫌なんだ。
なのに、お前は、またそうやって。

「なんでそんな泣きそうな顔するかなァ」

これ以上自惚れさせないでくれ、頼むから。