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はじめて『それ』を目にしたときにはどこの命知らずがこんな馬鹿げたイタズラをと心の底から慄いた。
しかし他の大将らや大参謀、元帥に至るまで誰も『それ』を気にした様子がないのを見て次第に日々の激務のせいで頭がおかしくなったかと思い悩むようになり、そしてある日。
おれは、ついに吹っ切れた。
おれにしか見えていないらしい『それ』――サカズキ大将の尻にある犬の尻尾を、存分に満喫しようと決意したのだ。
それからは毎日全力で大将の尻尾と向き合った。
機嫌が良さそうなときだけ控えめに揺れる尻尾が勢いよくびゅんびゅん振られる様を見てみたくて色んな事を試したし、尻尾に触れられるのか確かめるために今まででは考えられないほどの至近距離に近づいたりもした。
結果として尻尾は触ることができずサカズキ大将には変人認定されてしまったが、尻尾の動くタイミングはかなり把握することができたので大満足だ。
怖いだけだったサカズキ大将は今やおれの癒しである。

「アルバ、なにを笑うちょる」
「サカズキ大将は本当に甘いものがお好きだなァ、と」
「……そんなこたァ、なか」

そうでしょうね、という言葉を飲み込んでにこにこ笑う。
おれの目には嬉しげにぱたぱた揺れて見える尻尾だが所詮は幻覚。
マリンフォードの有名な和菓子屋で買ってきた大量の饅頭を親の仇みたいに睨みつけている大将は、むしろ甘いものが苦手なのかもしれない。
というか最近じゃおれが話しかけただけで尻尾びゅんびゅんしてくれるけど本当のところはどうなんだろう。
やることなすこと裏目で実はめちゃくちゃ嫌われてたりして。

「茶はいかがですか?」
「いらん」
「そうですか。ではそろそろ自分は仕事に戻ります」

そう告げた瞬間しゅんと垂れ下がるサカズキ大将の尻尾。
こんな非現実的な現象に過度な期待をするつもりはないけれど、もし大将がこの尻尾と同じように感じてくれているのならおれはとても嬉しい。

それがどういう意味を持つのか、このときのおれはまだ何も気づいていなかった。