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サカズキがコートを羽織るようになった頃から少しずつ進めていた無人島への移住計画は拍子抜けするくらいあっさりと完了した。
マリンフォードを発つ日付を教えていなかったせいかビブルカードの動きで事態を察したらしいサカズキから執拗に電伝虫がかかってきたが島に着いて一番に受信機を外して野生にかえしてやった為それももうない。
月に数度必要な物資を調達しに隣の有人島へ渡る以外は人と関わらず、情報を遮断し、漫然と時間を消費する。
生きていると言い難いほどに静かで停滞した毎日は海軍にいた頃とはまた違う閉塞感に満ちていたが、それでも自ら命を絶つことだけはしない。

「死なんでください」

あの日ようやっと泣きやんだサカズキがこれだけはと唯一つ譲らなかったことを思い出し、頬を緩める。
ビブルカードを手にしたことでおれの生死を目視できるようになった故かサカズキは何度も何度も、それこそ狂ったように「死なんでください」と念押しを繰り返した。
おれだってこんな別れ方をした相手のビブルカードが灰になるところなんて見たくはないし気持ちはわからなくもないけれどしかしおれには元より生への執着こそないものの積極的に死ぬつもりもなく、だから「サカズキが可愛くお願いしてくれたら約束しよう」と言ったのはあくまでちょっとした意地悪だったのだが、そんな戯言に本気の絶望を滲ませながら「わしァ、可愛くないですけェ、無理じゃ」と声を絞り出したサカズキはとても可愛かったのでおれはやっぱりサカズキに勝てそうにない。
どれだけ馬鹿馬鹿しくとも約束は約束だ。
約束は守らねば。
そうだろう?
なあ、サカズキ。

ここには存在しない嘗ての部下に語りかけ、晴天の下に二組の布団を干す。
いつかここが見つかったら「待ってたぞ」と言って笑って迎えてやろう。
ふかふかの来客布団や二組しかない食器類はきっと良いご機嫌とりになるに違いない。


ーーそんなふうに努めてくだらないことを考えるおれの眼の前でニュース・クーが落とした新聞に挟まっていたのだろう一枚の手配書がひらりと宙を舞った。
まだ幼い黒髪の少女に一目で異常とわかるほどのゼロが並んだ懸賞金。

『悪魔の子 ニコ・ロビン』

オハラのバスターコールの完了を示すそれを空中で掴まえてくしゃりと握り潰し、何とも形容し難い気持ちのまま、おれはただ自分を嘲った。