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やることなすことに規則と制限が付きまとう海兵といえど食事や休憩時間に誰と行動するかは個人の自由だ。
モモンガ大好きなおれは当然のように毎日モモンガに張り付いていたのだが、今になって思えばそういうストーカーじみたところも嫌われる要因の一つだったんじゃないだろうか。
嫌いな相手に毎日つきまとわれるなんて相当な苦痛だったに違いない。
今更反省したところで話しかけるなと言われている現状伝えようがないけれど本当に申し訳ない限りである。
おれはモモンガが好きだからモモンガに嫌われたままでいたくはない。
せめてこれ以上の迷惑はかけないようにしなければ。

そう思ってモモンガと鉢合わせないよう気を付けて行動していたらヤマカジに昼に誘われた。
副音声で「ちょっと顔貸せ」って聞こえた。
温厚そうな顔してるくせに怖すぎだろこいつ。

「で、なにがあったんだ。喧嘩の理由は?」
「喧嘩……いや、ありゃァ、」

あれは喧嘩じゃなくて拒絶だ。
おれがモモンガに嫌われているのに気付かずしつこく絡んで、いい加減にキレたモモンガがおれを拒絶した。
話しをまとめればそれだけの、単純で決定的な人間関係の破綻。
モモンガとの問題を第三者に知られたくなくて言い渋るおれと食い下がるヤマカジの間に微妙な空気が流れ出す。
そしてしばらくの膠着の後、軍配はヤマカジにあがった。

「あー……まあ、なんつーか、モモンガは悪くねェよ。おれがモモンガに近寄んなきゃそれで済む話だ。同じ隊だから完全に関わらねェってのは難しいだろうがな、せいぜい頑張るさ」

モモンガに「嫌いだ」と言われた昨日の今日で心配してくれているんであろうヤマカジとまで険悪になるのが嫌でシーフードカレーをかきこみながらざっくり話しを終わらせる。
と、後方でガタンッと大きな音が鳴った。
誰かが椅子でも倒したのかと眉を寄せて振り返るとそこには昨日会ったときより随分と顔色の悪いモモンガの姿。
モモンガは、まるで――裏切られた、とでもいうような表情でこちらを見据えて立っていた。
モモンガ、と動いたおれの口を見て、その顔が一層激しく歪む。

「モモンガ……あ、」

周囲の注目を集めながら無言で食堂から出て行ったモモンガの席には水の入っていないコップと綺麗に完食されたカレー皿が残されたままになっており、少し逡巡したあとトレイを取りに行くと皿についたカレーのルーはすでに乾いてこびりついているのがわかった。
食べ終わった後もしばらくここにいたらしい。
いつも食事が終わるとすぐに席を立つせっかちなモモンガにしては珍しいことだ。

「わざわざ残っておれらの話しを聞いてたんだろうな」

あれ見てもまだ同じことが言えんのかい、と葉巻に火をつけたヤマカジに、おれはがりがりと頭を掻いて溜息をついた。