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「#幼馴染」のBL小説を読む
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これがカクテルパーティー効果ってやつか。
以前どこかで小耳に挟んだ『喧騒の中でも気になる相手の声や興味のある話は聞き取ることができる』という不思議な現象の名前を思い出し、なるほどと唇を歪める。
隣の席の人間とすら声を張らなければ会話できないほど騒がしい宴の席でおれの耳が拾い上げたのは、間違いなく気になる相手の声で語られた興味のある話だ。
まあ、ローがおれを船に誘った理由が「親父に似てた」からだなんて知りたくもなかったが。
聞こえてきた言葉をもとに頭の中で二人を並べてみれば、確かにおれとローは同じ黒髪で目も似たような色合いをしている。
顔面偏差値は比べるまでもなくローの方が上だと断言できるものの、おれとて見れない顔をしているわけではない。
表情によっては真面目そうと捉えられることもある強面は、ローとの年齢差からして親子とまではいかないが歳の離れた兄弟と言えば通じなくもないだろう。
思い返せばローは初めて会ったときからおれに対して距離感が近かったし他のクルーと比べて甘えたような態度を取られることも多かった。
おれはローのそれを恋愛感情ゆえだと思い込んでいて、いずれは夜にお呼ばれされたりするのかもとか考えていて、それを満更じゃないと感じていて。

恐らくおれは初めて会ったその瞬間、ローに一目惚れしていた。

それなのにローにとってのおれは父親なんだそうだ。
他人より何より恋愛に遠い存在が、おれなんだそうだ。
馬鹿じゃねェの、と自嘲しエールを一気に飲み干すと正面にいたシャチが気をよくして更に度数の高い酒をグラスに注いできた。
それにも文句を言わず口をつけるおれにテーブル周辺から歓声が沸き起こる。
耳がキンとなるが、しかたない。
ハートの海賊団の若い連中は一気飲みや早飲み、飲み比べといった身体に悪い飲酒の仕方が大のお気に入りなのだ。

「すげェな、どうしたアルバ!」
「いっつもしみったれた飲み方しかしねェくせに!」
「うっせェ、大人の飲み方って言えガキども」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ酔っぱらいから帽子やらバンダナやらを須らく奪い乱暴に頭を撫でて揉みくちゃにしているとまだ比較的マトモそうなペンギンがローの傍を離れこちらに向かって歩いてきた。
「無茶な飲み方してるって船長が心配してるけど大丈夫か」と声をかけられローに視線を移すと、ふいと背けられる顔。
自分の親父に似た男が酔って醜態晒してるのがそんなに気に食わねェかよ。
さっき飲んだばかりの酒が喉にせりあがってくるような嫌な感覚がして、ペンギンが手に持っていたボトルを奪いとりグッと呷る。
ペンギンの焦ったような声は無視だ。
ローがどうとか今は何も考えたくない。
どうせ酔うなら、おれは気分よく酔いたいのだ。

「あーあ……次の島に着いたらお前らみてェなガキとじゃなくてイイ女と飲みてェなァ」
「アルバがそんなこと言い出すってマジで珍しいな。お前、どんな女が好みとかあんの?」
「おれァ年上で包容力があって金髪で胸がデカい馬鹿っぽい女が好きだ」

アルバより年上とかババァじゃねェかと悲鳴を上げるシャチにババァの何が悪いと鼻を鳴らして再度酒を呷る。
視線を感じて横目を向けると、何やら青い顔をしたペンギンの向こうでローが呆然としたように目を見開き固まっていた。
てめェのママと違うタイプの女が好みだからってそう驚くなよ、ガキが。
心の中で悪態をつき、狭量な自分に嫌気がさして追加で運ばれてきた料理に意識を向ける。
そうして喧騒の中でローがおれの声を聞きとった理由など考えもしないまま、ひたすら酒を飲み料理を摘んだ。
おれは、どう頑張ったってローの父親代わりにはなれそうにない。