壁にぶつかって破裂したゴムボール。 そんな例えが頭に浮かびサッチはおもむろに眉間を押さえた。 おそらくはアルバと話をしたうえで戻ってきたはずのエースだが、上手くいったかどうかは報告を聞くまでもない。 聞いたところでこの様子ではマトモな答えは返ってこないだろう。 立ち止まって俯いたまま動きを止めたエースはなんというかもう、ぐちゃぐちゃだった。 息と一緒に嗚咽を止めようとしているのか喉から「ぐぅ」とか「ひゅう」とか嫌な音が出ているし、涙だか鼻水だかわからないものをぼたぼたぼたぼた床に落とし続けている。 元スペードの海賊団のメンバーが見たら卒倒しかねない酷い有り様だ。 正直なところ「手遅れになる前に」なんて脅すような言葉を使いはしたもののサッチはアルバがエースを拒絶するとは露ほども思っていなかった。 もういいんですと言ってぎこちなく笑ったアルバの決心を疑っていたわけではない。 ただ、手に入らないと諦めたお宝が手の中に転がり込んできて嫌がる奴なんてそうそういやしないだろうと、アルバだって嫌われているというのが誤解だとわかればきっと喜ぶはずだと、そう思ったからこそエースにアルバの居場所を教えたのに。 それが、どうしてこんな。 「エース、アルバに謝ったんだよな?」 「う゛、ぐっ、う……お、おれ……あやま゛れながっ……ひっ、アルバに、ぎ、ぎらわれ、……!」 イエスかノーでなら会話できるかと投げかけた問いに、エースが顔を上げ嗚咽塗れの聞き取りづらい声で必死に状況を説明しようとする。 どうしよう、どうしよう、どうしたらいいどうすれば。 そんな声が聞こえてくるぐらい切迫した様子のエースに見えているかも怪しいくらい赤く充血した目で藁にも縋るような視線を向けられ、思わずたじろぐと何かが焦げるような臭いがサッチの鼻をついた。 感情に引きずられて能力が暴走しかけているのだろう。 海楼石を持ってくるべきか。 でも、自分がこの場を離れることでエースの状態が悪化して火事になったりしたら。 「……あ、おいエース、袋!焦げてんぞ!」 「ッん!ぅう゛う゛!!」 逡巡するうちに握りしめられた袋から薄く煙が上がっているのに気付き慌てて取り上げようとするも、エースはパニックになったように首をぶんぶん横に振り身体で袋を覆い隠すようにその場に蹲ってしまった。 うう、うう、と獣のような短い呻き声が続き、ついに耐え切れなくなったのか丸い背中が震えてえずきだす。 そんな哀れっぽい泣き方するならいっそアルバの前で泣いて優しく慰めてもらってこいよ、と半ば投げやりに考えたそれが実はこの問題を解決する一番の方法だったのではとサッチ思い至ったのは残念ながら散々泣き腫らして気を失ったエースを部屋まで運び終わった、実に数時間後のことだった。 |