「フフ……ッ花咲き病、ねェ」 「すごいでしょ?若に見せたくて急いで帰ってきたんですよー」 椅子に座るドフラミンゴの足の恭しく持ち上げ、アメのように舐めしゃぶりながら暢気に笑うアルバの周囲に無数の花が出現してはポロポロと床に落ちていく。 柔らかい舌が皮膚の表面だけを撫でていくむず痒い感覚に息がはずみそうになり、悟られないよう慎重に呼吸をすると花特有の甘ったるい匂いが鼻腔を満たした。 取引のために送り込んだ先の島でアルバがかかった『感情が高揚するとどこからともなく花が現れる』だけの陳腐な手品じみた奇病。 そのおかげで今やドフラミンゴの足元は花畑もかくやといった状態だ。 極めて低い感染率と無害な症状、そしてその見た目の華やかさも相まって島民の間では幸福の前触れと伝えられているらしいが、足に舌を這わせ口内で嬲る興奮から出現したアルバの花にも同じことがいえるのか甚だ疑問である。 「この病気、発症した人によって違う種類の花が出てくるらしいんですけど俺のやつちょっと若っぽくないですか?」 「……ねェだろ」 「いやいや似てますって。かわいいですよねぇ」 だらしない笑みとともに差し出されたタンポポに近い大ぶりの花を指先で弄りながら、再度「ねェよ」とアルバの感性を否定する。 男の容姿を花に例えてあまつさえ可愛いなど馬鹿にしているとしか思えない。 本気で褒めているつもりなら頭がおかしいんだろう。 そして、アルバはおそらく、頭のおかしい男なのだ。 愛おしげな視線に耐えかねてそっぽを向くとどこに喜ぶ要素があったのかドフラミンゴの周囲にまた花が増えた。 脳にこびりつくような甘ったるい匂いが鬱陶しくて仕方ない。 「おい、いい加減に止めろ」 「無理ですよー。だって若可愛いんですもん」 悪びれる様子もなく責任を押し付けてきたアルバが足の腱に噛みつき、足先がビクリと丸まった。 そして膝に床にと積る花。 イカレてる。 現地の医者曰く長くて一週間ほどで完治するらしいが、それまでにいったいどれほどの花が出てくるのやら。 心底うんざりといった顔で持っていた花を投げ捨てるとそれを空中で受け取ったアルバが足から顔を離して眉を下げた。 「他でどれだけいいことがあっても何も起きないんですけどねぇ」 「……なに?」 「花咲き病だってわかったのも任務が終ってこれで若に会えるって思ったときでしたし……今も一応我慢しようとは思ってるんですよ?」 でもどうしても出ちゃうんです。 そう言って少し照れくさそうに微笑んだアルバにむずりとしたものが背筋を駆ける。 と。 「あ」というアルバの間抜けな声と共にドフラミンゴは硬直した。 目の前に広がるのは部屋一面を埋め尽くすピンクの花。 ひらひらした花弁を持つそれは一目見てアルバとは別種のもので、花咲き病は人によって出現する花が違って、ここにはアルバと自分以外誰もいなくて、つまり。 「……感染することはほぼないって聞いたんですけど」 甘い匂いに侵された脳がはじき出した結論を肯定するアルバの呟きにドフラミンゴは無言でサングラスを押さえた。 赤くなった顔を見られたくない、なんて、もはや何の意味のない抵抗だが。 |