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「よォ、アルバ」

モビーが海に作る白い泡の道筋を背景に薄らと焦げ跡の残った袋を眺めていると背後から気安い調子の声がおれの名前を呼ぶのが聞こえた。
サッチ隊長、と返したおれにいつもと違う点はないはずだ。
それなのに手に持った袋を目にした瞬間微かに表情が曇ったのは、隊長がすでにことの顛末を聞き及んでいるからだろう。
おれとエースのやりとりを見て何かしら異変を感じた家族の誰かが隊長に報告したのかもしれない。
わざわざ様子を確認しにこられるほどの失態を演じたつもりはなかったのだが。

「またエースにフラれたんだってな」
「はは……なんか、すみません」
「全くだぜ。このおれが丸一日使ってプレゼント選びに付き合ってやったってのに」

不貞腐れたように唇を尖らせるサッチ隊長に再度小さく謝りプレゼントの袋に視線を落とす。
いつまでたっても警戒されたままのおれと違いエースとすっかり打ち解けた様子のサッチ隊長に一緒に見繕ってもらえば喜ばせることができるかも、と短絡的な考えで協力してもらった結果がこのザマだ。
これならエースも気に入るだろうと太鼓判を押してもらえたのに中身を見ることもなく受け取りを拒否されたなんて、情けないやら申し訳ないやら。

「……それ、エースに渡さねェの?」
「はい。ちょっと勿体ないけど、このまま捨てるつもりです」
「なんでだよ。いつも無理やりにでも押し付けてただろ」
「なんでっていうか……今までのやり方がおかしかったんですよ。プレゼントってのは、喜んでもらってこそでしょう」

不審そうなサッチ隊長を納得させられる言葉を探すうち、ふと先程のエースの姿を思い出して唇の端に力が入った。
変な気分だ。
自分が笑いそうなのか、泣くのを我慢しているのかわからない。

「もうエースには関わらないことにしました」

とりあえず自分の心情は一旦無視し、心配をかけないよう意識して頬を持ち上げながら決意を告げるとサッチ隊長が驚いたように目を見開いた。
あの手この手で気を引こうとしていたのを知っているから信じられないんだろう。

「そりゃあ……本当にいいのか?」
「いいんです。やっぱり、どうしたって生理的に合わない人間ってのはいるでしょうし」

おれが何かをしなくたってエースの居場所はモビーにある。
それを壊すのはおれの本意じゃない。
だからもういいんです、と繰り返すと隊長はそれ以上何も言わなかった。
これでいい。
明日からの日々は、きっと今日より良好だ。