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「長官ー、コーヒー持ってきましたよォ」
「遅い!コーヒー一杯用意するのに何十分かけてんだテメェは!」
「いやァ、長官においしいコーヒー飲んでもらいたくて張り切ったら時間かかっちゃって」

見え透いた媚を売るおれを胡散臭そうに睨みつけてコーヒーを啜った瞬間、スパンダムが「アッチィ!」と叫んで椅子から飛び上がった。
期待した通りの大げさな反応に爆笑を禁じ得ない。
コーヒーが熱いのは毎度のことだというのに、この男には学習能力というものがないのだろうか。
ないんだろうな。
ないからこうしておれの暇つぶしのオモチャになっているのだ。
なんて可愛い、可哀想なスパンダム!

「笑ってんじゃねェ!あとさっきから近いんだよ離れろ!」
「えー、おれちゃんと長官のこと守ったのにそういうこと言っちゃいます?」
「なにを……お、おお!?」

腹を抱えてヒィヒィ言いながら先程放り投げた際に零れてしまったはずのコーヒーを差し出してやると隈に縁取られたスパンダムの瞳がキラキラと輝いた。
しょぼくれたオッサンに似つかわしくない、まるで目の前で最高の手品を見た子供のような表情だ。
ルッチが見たら鼻で笑うだろうしカリファなら「セクハラです」とバッサリ切って捨てるだろうが、こういったスパンダムの喜怒哀楽の激しさはおれにはとても好ましいものに映る。
更に言うとおれの行動で一喜一憂する姿はもっと可愛い。
もしかすると好きな相手をいじめるガキの心理っていうのはこんな感じなんだろうか。

「なあ長官、コーヒー飲みたい?」
「あァ?そりゃお前、飲みたいから淹れてこいっつったんだろうが」

ただでさえ遅かったんだからさっさと寄越せという言葉にニヤリと笑い伸ばされた手を掴んでコーヒーを含む。
スパンダムの理解が追い付く前に顔を近づけ、ぽかんと開いた口内にコーヒーと一緒に舌を突っ込んでやるとそこでようやく抵抗が始まった。
とはいえファンクフリードを持たないスパンダムなどCP9はおろか一般人にすら劣る非力な存在だ。
懸命に力を込めたところでおれの拘束から逃れられる可能性は万に一つもなく、歯の間に挟んだ親指の骨をかみ砕くこともできはしない。
このまま続けてやったとして仕舞いには怯えるか羞恥するか、それともひたすら憤るのか。
スパンダムのことだから全て同時にやってのけるくらいのことはしてくれそうだとほくそ笑み、邪魔なサポーターも物ともせずうーうーとこもった唸り声をあげるスパンダムの口内を蹂躙する。
と、途端に弱っちい抵抗が完全に途切れ、代わりにぐっと上体を寄せられた。
されるがままだった舌が絡まり、吸い付き、歯列をなぞる。
素晴らしいとはいえないまでも上等なテクニックだ。
少なくとも、スパンダムが習得しているとは全く想像していなかった程度には。

「えー……なに、長官キスうまいじゃん。どこで練習したんです?」
「ッは、男に褒められたって嬉しくねェんだよボケ」

予想のように恥じらうこともなくシャツの裾で口を拭うスパンダムはどうやら本当にキス慣れしているらしい。
セクハラだと言われつつカリファのような美女に対しても鼻の下を伸ばしたりしないから強すぎるほどの野心に対して色欲は薄いのだろうと思っていたのだが違ったのだろうか。
なんとなく面白くなくてムッとしてしまう。

「おいなんだその目は……おれァCP9の長官だぞ?女くらい上手いこと扱えねェと格好がつかねェだろうが」
「……格好つけるために練習したんですかァ。なんか普通に女にモテたいからとかいうよりだいぶゲスいですね!」
「なんで上司を貶めて機嫌良くなってんだクビにされてェのかてめェ!」

ぎゃんぎゃん噛み付いてくるスパンダムをまあまあと宥め、諸々のやりとりの間に随分と冷めたであろうコーヒーを差し出す。
そしてまだ不服そうなスパンダムが口に含むのと同時に「間接キスですね」と囁くとコントかと思うくらいの勢いでブッとコーヒーを噴き出した。
爆笑。
もう、こいつ本当に面白い。

「笑うなっつってんだろうがァ!!」
「いやだって間接キスくらいで……キスも済ませた仲なのに……」
「ふざけた言い方するんじゃねェ!!」

ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんうるさいスパンダムに新しいコーヒーお持ちしますと告げて笑顔で長官室を後にする。
いちいち豆を挽くのは面倒くさいが、そこまあかわいいスパンダムのため。
また腕によりをかけて、美味しくて熱いコーヒーを用意してやろう。