あれから三日。 『もうエースに関わらない』というサッチには納得しがたい宣言を、アルバは本当に実行に移していた。 別に避けているわけではなく行動のパターンをエースが来る前に戻しただけのようだが、モビーほどの大きな船ならそれで充分だ。 エースからすればアルバが忽然と姿を消したようにすらみえるだろう。 お互い傷つけず、傷つかない。 わざわざ己を殺してまで希薄な関係に収まろうとする弟に思うところはあるものの、これが二人にとって最善だというのならサッチに言えることは何もなかった。 そう。 最善ならば、の話である。 エースはあの日からそわそわと落ち着かない様子で周囲を窺い続けている。 隊長になって一人部屋に移ったくせに自由になる時間を使っては大部屋の前の廊下を意味もなくうろつき、食事の間も眠ることなくあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ。 これはもう絶対にそうだろうと自分の勘が当たったことを確信し、アルバが海に投げ捨てようとするのをプレゼント選びに付き合った報酬だと嘯いて保護しておいた焦げ付きの袋を見せてみればエースは案の定迷う素振りすらなくそれに食いついてきた。 「それ!おれンじゃねェか!なんでサッチが持ってんだよ返せ!」 犬歯を剥き出しにして吠えながら必死に煤けた袋に取り縋るエースを見れば「エースがアルバを嫌ってる」なんて言える奴は誰もいなくなるはずだ。 サッチの考えが正しければエースは周囲や当人が言うほどアルバのことを嫌っていない。 なにせ今までアルバが無理やり押し付けたプレゼントはなんだかんだで全て捨てられることなく部屋に持ち帰られていたし、会えば顔を歪めて話せば刺々しい態度をとるくせにアルバを避けて行動することは絶対しなかったのだ。 今現在アルバがしているように少し時間をずらすだけで相手の顔を見なくてすむというのに、である。 むしろこの剣幕からすると甘え方がおかしいだけで実際には一番アルバに懐いているんじゃないかとすら思えた。 「エース、あいつのこと嫌いか?」 「……別に、嫌いってわけじゃ」 「じゃあ好きか」 「す……ッ、はァ!?好きじゃねェよ!」 「あー、わかったわかった、好きなのな」 「好きじゃねェ!!」 「お前なァ……そうやって素直にならねェからこうなったんだぞ」 全身から火の粉を散らして喚くエースをあしらいつつ真顔で現状に言及すると一瞬で周囲の温度が下がった。 息を飲んで硬直したエースが視線だけで「どういう意味だ」と問いただしてくる。 どうもこうも、もう意地なんて張ってる場合じゃないって自分でも気づいてるんだろうに。 「手遅れになる前にさっさと謝ってこい」 アルバのいそうな場所を何箇所か教えてやると同時、弾かれたように駆け出したエースの背中にむけて溜息を吐く。 どうやら若くして隊長にまで上り詰めた末っ子は、こと愛情に対して酷く幼稚であるらしい。 |