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「まあ、あれだ。バレるのは時間の問題だろうし、諦めて告白しちまえば?」

認めたくない現実を突きつけられ顔面蒼白で立ち尽くすボルサリーノに対して無責任かつ投げやりな言葉を残すとクザンはお役御免とばかりに執務室を去っていった。
その後ろで当然のようにゆらゆら揺れていた真っ白い毛長の尻尾と自分のそれを見比べ、八つ当たりのように机を蹴りつける。
告白?
こんな姿になってまで、他の二人が褒められる傍ら一人おかしいだの可愛くないだのと吐き捨てられた自分が告白だと?
なんの冗談。
否、冗談で済むならまだマシだ。
冗談で済まなければ、長年必死で維持してきた腐れ縁の関係すら壊れてしまうではないか。
どうしてこんなことにと考えて噛み締めた歯がギシリと軋む。
ボルサリーノがこの恋に気づいたとき、アルバとは既に今と変わらない仲だった。
決して友好的とは言えないけれど安定してそれなりの距離を保ち続けられる関係は気持ちを隠すのにも仮初めの満足感を得るのにも最適で、だから、ボルサリーノは告白する気なんて一切なかったのだ。
光人間である自分が眩しいと感じてしまうほどの、馬鹿みたいに明るい太陽のような男を失いたくなかったから一生隠し通して墓場まで持っていくつもりだった。
それなのに、なんで、こんな。
胸を苛む焦燥に合わせ、視界の端にちらちらと元凶の黒が入り込む。
更には苛立ちに目を眇めた瞬間頭の上の三角まで如実に怒りを表したものだからボルサリーノはもう限界だった。
これさえなければ、こんなことには。
何かがキレた頭でそう考えると息をするように光の剣を作り出し尻尾を掴んでおもむろに刃を当てる。
ぶつっと肉を断裂する音が部屋に響き、しかし、一度動きを止めた尻尾は己の身体の一部とは認めていない部位から伝わった鈍い痛みに眉を顰めるボルサリーノをあざ笑うかのように手の中でキラキラ光りだすと数秒で元通りに再生してしまった。
腹の立つことにこの忌々しい物体はボルサリーノのロギアとしての性質をしっかりと有しているらしい。
ならば、と机の引き出しを開け小ぶりのナイフを取り出して覇気を纏わせる。
そして――





そして、アルバに手を取られて「好きだ」と言われ一方的に何やらまくしたてられたボルサリーノは気づけばアルバの膝の上で向かい合うようにして抱きしめられていた。
なにがどうしてこうなったのかまったく理解ができないが、とりあえず最悪の気分なのは確かだ。
混乱に乗じて海楼石の錠をかけられたせいで光になって逃げることもかなわず、馬鹿の一つ覚えみたいにかわいいかわいいと繰り返すアルバに尻尾も耳もせわしなく動きまわってみっともないったらない。
ことアルバには隙を見せないよう徹底していただけに羞恥もひとしおである。

「いやー、思い返してみると自分でも気づかなかったのが不思議なくらい露骨にボルサリーノのこと好きだったよなァ、おれ」
「……全ッ然思い当たる節がないんだけどもォ〜」
「なんでだよ!いままでどれだけ邪険にされてもめげないで毎日時間つくって会いにきてたし今回の騒動だってボルサリーノだけは身体の方が心配で愛でるどころじゃなかっただろ!おれの大好きな黒猫ちゃんなのに!こんなにかわいいのに!!かわいいのに!!!」
「ッう、るさいねェ〜耳元で怒鳴るんじゃねェよォ……!」

落ち着かない身体を無理矢理押さえこみ出来る限り平静を装うも、いつも通りの大声でいつもではあり得ないことを語るアルバに限界を感じ力の入らない腕を突っ張る。
が、次の瞬間には体勢を崩されて先程よりしっかりと抱き直されてしまった。
頭の中が茹だったみたいに熱い。
海楼石に力を奪われていなければ朝方のサカズキのように能力を暴走させないよう多大な労力を割かなければならなかっただろう。
今更ではあるが、これ以上の醜態を避けられるという点においては少しだけ海楼石に感謝してもいいかもしれない。

「なァ、ボルサリーノは?おれのこと好き?」
「……耳と尻尾があれば大体わかるんだろォ?ならそのくらい、聞かなくたって察せるんじゃないかねェ〜」

うるさいと言ったためか声を絞って囁きかけてくるアルバに冷たく返すと、すぐに「可愛くねェなァ」という聞きなれたセリフが返ってきた。
ただその表情はいままでと比べ物にならないくらい柔らかい。
それもそのはずだ。
なにせ優しく細められた視線の先には、アルバの体に沿って巻き付くように伸びているボルサリーノの黒い尻尾があるのだから。

「可愛くないけど可愛い。そういう素直じゃないとこも好きだぞ、ボルサリーノ」

再度の告白とともに掠めるように唇を奪われる。
へェ、と気のない返事をしたボルサリーノの後ろではアルバの体から離れてぴんと立ちあがった尻尾が小刻みに震えていた。
熱くてたまらない耳ともども切り取って海に捨ててやると心に誓いながら、ボルサリーノはサングラスを外し、唇を尖らせてアルバをじっと睨みつけた。