「何しにきやがった」 「あー、ちょっと話したいことが、ッ待ってまってください船長ごめん刀向けないで怖い怖いごめんなさい!」 返事のない部屋に勝手に入り、ベッドの上で横になっていた船長に手を伸ばしたら目にもとまらぬ素早さで刀を突きつけられて思わずハンズアップ。 丸まった背中と強張った肩を見てまた一人で胸の痛みを我慢してるんじゃないかと思ったのだが、どうやらウトウトしていたところを邪魔してしまったらしい。 ペンギンの話を聞いて焦っていたとはいえ、こんな夜更けに部屋まで押しかけるのはさすがにまずかったか。 「起こしちゃってすみません。すぐ出ていくん、でっ!?」 日中の態度について色々と言い訳したかったのだが、そのために船長の眠りを妨げるのでは本末転倒、今日のところは一旦退いて明日の朝もう一度出直そう。 そう考えて身を引いた瞬間腹に衝撃が走り、踏ん張る足に反して上半身が転げ落ちた。 船長に能力でバラされたのだ。 足がなくなるのは久しぶりだな、と悠長に構えながら頭を庇ったおれの耳に届いたのは悲鳴を押し殺したような小さな声。 腕の隙間から覗く船長の顔色は昼間見たときと比べ物にならないほど酷いものだった。 「だめ、だ」 「……船長?」 「出ていくのは、駄目だ、許さない」 約束しただろう。 その一言で船長の懇願するような瞳に魅入られて動きを止めていた脳がようやく働きだした。 約束ってあの、船長の望みを叶えるって言ったときのやつだよな? それと今の状況になんの関係があるんだと首をかしげるおれに、船長の青ざめた顔がくしゃりと歪んだ。 「おれを……嫌いになったのか。だから船から降りるのか。約束を破るのか」 「はっ、えっ?」 嫌い?船?降りる? 船長の口から出た言葉がぐるりと脳みそを一周し、疑問符を一つずつ感嘆符に変えていく。 …………誤解だ。 船長すごい誤解してる! 「降りません!降りませんよ!船長が嫌じゃなきゃずっとそばにいますから!」 「出ていく」という言葉を「船を降りる」と解釈したらしい船長に向け必死に弁解するも、上半身だけではベッドに這い寄るのが精いっぱいで腕を伸ばしてみても一向に届かない。 おれを逃がすまいとしているくせ抱き寄せてはくれないあたりに船長の動転っぷりが窺える。 わたわたしながら下半身を床に座り込ませ切断面に上半身をくっつけていると船長の刀が鈍く光った。 また切られる前に船長を落ち着かせないとまずいことになりそうだ。 「船長!……ロー!」 船長の刀が再度振るわれようかという直前くっついた身体を駆使してベッドに飛び乗り、腕で逃げ場を無くすようにして船長を壁際に追いつめる。 想像以上に近くなった船長の顔に心臓がバクバクと暴れだした。 見開かれた目が潤んでるしなんかいい匂いするし、ぶっちゃけこのままキスしたいっていうか押し倒したい。 が、今すべきなのは話し合いだ。 頑張れおれ。 欲望に負けるんじゃない。 「……話しを、聞いてください」 必死に顔を逸らそうとする船長の顎を掴んで無理やり視線をあわせ、告白したときと同じように真っ直ぐ見つめる。 きっかり十秒後真っ赤になった船長が死にそうな声で「わかった」と話し合いに応じてくれたからよかったものの、あと数秒遅かったらどうなっていたことか。 このやり方は間違いなく諸刃の剣だ。 |