「花束、気に入らなかったか?」 綺麗な薔薇だったろう、というわざとらしいアルバの言葉に懸命に吊り上げた口許がヒクリと引き攣る。 思わず頷いてしまいそうになるような甘い声だが、この花束を受け入れてしまったら全て終わりなのだ。 花言葉が何であれ、それらはおれの求めるモノではないのだから。 「……実は、もう一つプレゼントがあるんだ」 拒絶の意を込めてじっと睨み続けているとアルバが微かに笑みを湛えながらポケットから小さな箱を取り出した。 アルバの手で開かれた小箱の中で何かが月明かりに反射しキラリと光る。 小さな金色の輪っか。 その正体を理解した瞬間頭の中が真っ白になり、アルバからひったくるようにして箱を奪い取った。 緊張で指が上手く動かない。 もたもたとクッションに埋まったそれを抜き取り浅く息を繰り返しながら左手の中指に通そうとするが、待ち望んでいたはずのそれは最後まで嵌ることなく指の半ばで止まってしまう。 なんで、せっかく、指輪、アルバからの指輪が。 力任せに押し込もうとしても関節から先へ進んでくれない指輪にぼたぼたと涙を落としながら唇を噛むと、こちらにむかってアルバの手が伸びてきた。 咄嗟に指輪を奪われないよう拳を握ったおれにアルバが「指が違うんだよ」と苦笑する。 「ゆ、び?」 「どうせ嵌めてもらえないならどの指のサイズでも構わないだろうと思って、自棄になって注文したから」 そう言って爪の先でトントンと叩かれる薬指の感触にまじまじと自分の手と指輪とアルバを見比べ、 「…………おれに」 「ん?」 「おれに、薬指につけさせたくなくて、それで指輪を渡さなかったのか」 「……え?」 新しく溢れてきた涙が、ぼたりと指輪に落ちて弾けた。 困惑顔でおれの拳をとるアルバをよそに棒立ちのままこの一カ月のことを振り返る。 指輪を贈りたいと言ってくれて、でもそのあとすぐに「おれのドフィ」と呼ばなくなり、愛称で呼ぶなという理不尽な命令にも抵抗せずベビー5におれのことを恋人ではないと言い、そして今日指輪を贈らず黄色い薔薇の花束を渡してきた。 それはつまり、確かにあったはずの薬指への指輪分の好意がこの一カ月間でなくなったということだろう。 今はもうこの指輪をつけさせたくないと思っていると、そういうことなんだろう。 ぐ、と喉が絞まって不格好な嗚咽が漏れる。 指輪が欲しかった。 指輪を貰えた。 それなのに、こんなのはあんまりだ。 「っ違う!お前が薬指につけてくれるっていうなら、つけてほしいに決まってるだろう!」 「ならつけてやる。だから、そのかわりおれのものになれ」 いつまでも泣いたままでいるおれを見かねてか声を荒げるアルバに笑いながら言葉を返す。 おれのものになれ。 我儘の皮を被った無様な懇願に、アルバがゆっくりと唇を開いた。 |