午前中のうちに部下たちの話を聞いてわかったのだがクザンに生えた猫の耳と尻尾は自身の感情を包み隠さず表してしまうらしい。 原因がわからない不安から苛々すると耳が倒れて尻尾がパタッパタッと振られるし、何度も同じことを聞かれて面倒になると生返事するように尻尾の先だけが緩慢に動く。 意識すれば多少は抑えられるが常に頭の天辺と尻の両方に気を付けるというのは土台無理な話でクザンは早々に感情を隠すことを諦めた。 おれが悩んでどうこうなる問題じゃねェし、なんて気楽に考えていたときにはまだこの異常事態を甘く見ていたのだ。 実際には恋人の気配を感じるだけで耳がぴくぴく動くわ声をかけられた瞬間尻尾がピンと立つわ無意識のうちに恋人の足に尻尾が絡むわ、もう好意の駄々漏れもいいところで普段自分に言い聞かせるようにして保っている淡白さなど欠片もなくなってしまった。 べたべたした付き合いを好まない恋人に重いと思われたくなくて必死に隠していたのが全てパアである。 恋人には、何を血迷ったのか「かわいい」と言ってもらえたので結果オーライではあるのだが、そうなったのはクザンの好意の相手があくまでも恋人だったからであって目の前を歩きながら隣のアルバに尻尾を擦り寄せているボルサリーノ達はそういう関係ではなかったはずだ。 ていうかボルサリーノってアルバのこと嫌ってたんじゃねェの? 周りもすっごいざわついてるけど、どういうことなのよその尻尾。 無視しようかと思ったが、もしボルサリーノが無意識でやっていることならズボンのチャック全開で動き回っているようなものだ。 クザンがここにいることは気配で察しているだろうし、あとでなぜ教えなかったと八つ当たりされても面倒である。 「あー……ボルサリーノ、ちょっといいか」 「クザン〜?わっしに何か用かァい?」 ならば一言忠告するくらいしてやってもいいだろうと考えて二人の間に割り込むと、途端にボルサリーノの耳が不機嫌そうに倒れた。 疑問を口に出す間もなく伸びてきた腕にわしりと耳を掴まれる。 腕の主はボルサリーノではない。 子供のように目をキラキラと輝かせた男……アルバだ。 「クザンは白猫なんだな!真っ白じゃねェか!うわっなんでこんな白いんだ!?」 「そりゃ白猫なら白いのは当然でしょうや」 「ちょっと長毛っぽいし、毛もツヤツヤで綺麗だなァ!」 アルバがクザンを「綺麗だ」と褒めた瞬間ボルサリーノの尻尾が尋常じゃないくらい苛立たしげにバシン、バシン、と左右に振られだした。 顔だけはいつも通り呆れたような冷めた表情をしているため違和感がすごいがボルサリーノと同じ状況に立っているクザンにはわかる。 なにせ耳と尻尾は嘘をつかないのだ。 これはひどい。 咄嗟に頭に浮かんだのがそれだけだったということが事態の深刻さを物語っていた。 「アルバ、ボルサリーノちょっと借りてくわ」 「ん?おう!持ってけ持ってけ!」 「人を荷物みたいに言うんじゃねェよォ〜」 アルバの快諾を耳にして初めて表情と猫部分が一致したボルサリーノを連れ、ざわめく廊下を執務室へ急ぐ。 時折聞こえる「マジか」だの「うわァ」だのという声からして最早手遅れな気がしないでもないが。 |