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何の冗談か大将三人に揃って獣……猫の耳と尻尾が生えたのは今朝早くのことだった。
鏡に映る己の姿に唖然とし、能力者による何らかの攻撃かとざわめきながら好奇の視線を送ってくる周囲に殺気を放ち、長年憎からず想っている相手に「嬉しくないだろうが似合ってると思うし案外可愛いぞ」と好意的な感想を述べられて危うく小噴火を起こしそうになり。
午前中だけで色々あったものの見た目以外に支障はないとわかってから必死に気にしないようにしているそれが如何に凶悪なものであるか、サカズキは今になってその恐ろしさを理解した。

「お、前、マジか!マジだったのかよなんだよそれ猫耳って!尻尾って!しかも黒!猿でもねェし黄色でもねェしアイデンティティ崩壊してんじゃねェか何だよ黒猫ってお前おかしいだろそれ!」
「オォ〜……アルバの挙動の方がよっぽどおかしいから、少し落ち着くといいよォ〜」

サカズキと同じくふざけた格好になったボルサリーノと情報を交換しようと話していたところへドタドタと乱入してきたアルバとは訓練生時代からの顔なじみだ。
騒がしくて落ち着きのない男だが仕事に関しては優秀で決して半端なことはしない。
白黒をはっきりつけるところは好感が持てるしサカズキもそれなりに認めている。
が、とにかくうるさい。
長所を全て足してもマイナスに転じると感じるほどうるさい。
そんなアルバに対してボルサリーノはいつも冷たい態度をとっていて、どちらかというと嫌っているのだろうと思っていた。
しかし。

「ったくボルサリーノはこんなときでも可愛くねェなァ……お!サカズキは三毛か!雄の三毛猫ってすげェ珍しいんだぜ?やったな!」
「何も喜ぶことなんぞありゃァせんわ」
「でもほら、あいつもずっと言ってたけど可愛いし!いいじゃん三毛猫!」
「ッアルバ!黙らんか!」

想い人を引き合いに出され声を荒げるサカズキに対し、大口を開けて笑っていたアルバがふと眉を寄せた。
視線の先を辿って振り返るとそこには何を考えているかわからないいつもの笑みを浮かべるボルサリーノの姿。
ただし頭のてっぺんに乗った耳は後ろに倒れ、尻尾は空気を叩きつけるように大きく左右に振られている。

「話しの邪魔したからってそんな怒るなボルサリーノ」
「……誰も怒っちゃいねェよォ〜?」
「嘘つけ!おれ猫好きだから、耳と尻尾があれば大体わかるんだからな!お前いま超不機嫌だろ!」
「わかってても有効に活用できないんじゃあ、わかってないのと同じだねェ〜」
「やっぱ怒ってんじゃねェか!可愛くねェ!」

アルバが「おれもう仕事戻るわ!」と言い残して慌ただしく出ていったことにより静けさを取り戻した室内でちらりとボルサリーノを横目に見る。
静止した猫耳と力なく地面に向けて垂れた尻尾。
サカズキは別段猫に詳しいわけではないが、これは。

「…………わかりやすいのう」
「…………うるさいよォ」

己の尻尾が短くて目立たない団子のようなものでよかったと、心の底から思った瞬間だった。