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自力でベッドまでたどり着くことができないほど体調が悪かったのか、いつもの自信に満ち溢れた姿からは想像もつかないほど弱々しい様子でソファに横たわっていたドフィ。
おれ達の間になにか勘違いがあるのだとしたらドフィの誕生日である今日中に話し合いたかったのだが、だからといって不調で眠りについているドフィに無理をさせるわけにはいかず、諦めるしかないかと小さく息を吐くとドフィの肩が怯えたようにビクリと跳ねた。
「若」と声をかけるたび強張る表情はまるで悪夢にでも魘されているかのようで。

「おれのドフィ」

思わずそう呼びかければ悪い夢から醒めたようにとろりとした瞳がおれを捉え、声で輪郭をなぞるように名前が繰り返された。
こちらにむけて伸ばされた腕も少し子供っぽい甘えた仕草もすべてが以前のままだったのに、暗いばかりだった未来に光が見えたと、そう思ったのは間違いだったのだろうか。
雲の切れ間から差し込んだ月明かりが照らす廊下に先程まで美しく咲き誇っていたはずの黄色い花弁がひらひらと舞い散る。
部屋の外では滅多に見ることのない素顔が濡れていくのを止めたくて伸ばした手はドフィ本人によって払いのけられた。

「ドフィ」
「愛称を許した覚えはねェ」
「……若」

先程幸せそうにしていたのはやはり夢うつつの状態だったからにすぎないのか。
引き攣りながらも鋭さを失わない声に咎められ落胆しながら呼び方を改める

と。

「え、あっ、若!?」
「〜〜ッ……!」

ぼた、ぼたり、ぼたぼたぼた

溢れだした大粒の涙が次々とドフィの下がりきった口角の横を過ぎ廊下を濡らしていくのを見て、ああ、と声が漏れた。
間違えた。
正解が何かはわからないけれど、少なくともドフィの望みはこれではなかったのだ。
オロオロするおれに向けドフィが無理やり頬を持ち上げる。
涙を抜きにしたってとてもじゃないが笑顔には見えない酷い表情に焦りだけが加速した。

「フフッ……こんなもん、寄越すくらいだからなァ。呼び方なんて……おれのことなんて、どうでもいいんだろう」

こんなもん、と言いながら茎から折れて床に落ちた薔薇を踏みつぶすドフィに違和感を覚え眉を寄せる。
当初の誕生日プレゼントである指輪はドフィとしっかり話をして、元の関係に戻れたら渡そうと決めていた。
だから部屋には昼のうちに街の花屋で購入した薔薇を置いてきたのだ。
ドフィに疎ましがられていると思っていたため毎年贈っていた赤薔薇を買うことはできなかったが、それに見劣りしないほど鮮やかな大輪の黄薔薇。
今更おれからの花束の意味なんてドフィは気にしないだろうと自嘲しつつ、万が一にも数多くある花言葉で誤解を生まないようメッセージカードもきちんと添えた。
『献身』。
ドフィがおれを捨てたとしてもおれはドフィのために生きると誓った花束。
それを受けとってなぜおれがドフィを蔑ろにすると思える。
もしかしてメッセージカードを見なかったのか?
だとしたらドフィが泣いた理由は。
花言葉を取り違えたせいで悲しんでいるんだとすれば。

ドフィ、お前は。