黄色い薔薇の花束を掴みとって部屋を突っ切り廊下へ続く扉を蹴り開ける。 分厚い扉が吹っ飛んで粉々になったがそれに構っているような余裕はない。 目の前が真っ赤で自分が何をしているのか、どうしようとしているのかすらわからないのに身体が勝手にアルバの後を追う。 廊下を出ると少し離れたところに見送ったばかりの背中があって、振り返ったアルバと目が合った瞬間自然と足が駆けだした。 ドフィ、と小さく動いた唇にカッとなって振りかぶった花束を頭上から叩きつける。 折れた茎、舞い散る花弁。 言いたいことは山ほどあるのに何を言えばいいのかわからない。 殴って、花束を駄目にして、それで? 会いたくないと思っていたのは何故だった。 面と向かってお前なんかいらないと言われたらどうするつもりだ。 ぐるぐると、ぐつぐつと、出口を見失った感情が臓腑の内側で煮立っていく。 場違いに明るい色の花びらがアルバの髪から落ちるのがやけにゆっくりとして見えた。 「ドフィ、どうした?なんで泣いてるんだ?」 耳鳴りばかりの世界のなか戸惑ったようなアルバの声だけが明瞭だ。 泣いていると言われて指を這わせると、そこには確かに火照った頬を濡らす涙があった。 脈打つ米神も喉に物が詰まったような息苦しさも全身を軋ませる胸の痛みも、すべてはこの涙が原因か。 そう冷静に納得する自分を激情の波が押し流す。 なんで、だと? おれが泣くのがそんなに不思議か? この花を受け取って、おれが笑顔であっさりと手放してやるとでも? ふざけるな。 おれは、お前だけなんだぞ。 「おれのドフィ」なんて馬鹿げた呼び方を甘受して、そう呼ばれたいと、愛されたいと、愛していると思ったのは、 アルバだけ なのに。 「ドフィ……おれのドフィ」 泣かないでくれ、と伸ばされた手をはじいてよろめくように後ろに下がる。 触れられたくない。 呼ばれたくない。 さっきはあんなにも温かく感じた声が今は酷く空虚に聞こえた。 |