たんじょうびおめでとう。 アルバの姿を隠してしまった扉を見つめながら残された言葉を反芻する。 アルバは何年も前からずっと日付が変わった直後か、遅くても朝一番には祝いの言葉をくれていた。 だから今日も待っていたのだ。 起こしに来るなと言ったのは自分だしアルバが変わってしまったこともわかっていたが、それでも今日くらいはもしかしたら、と。 けれど、時計の針が重なった瞬間いまにもノックの音が響くんじゃないかと耳を澄ませてみても聞こえるのは時間が進む音だけだった。 目が覚めて、いくら待っても現れないアルバに最後の希望が砕かれた気分だった。 そこから先は顔を合わせたくない一心でアルバのことを避け続け、宴に出席しないという言伝を聞いたときには無理やり笑顔を作って自分を誤魔化した。 おめでとうと言われたところで去年の幸せな誕生日と比べてしまって苦しむだけなのだからこれでいい。 そう思って、思い込もうとして、いた。 アルバの声と温もりを思い出してじわりと目の奥が熱くなり額と眉間に力が籠る。 慌てて唇を結んで堪えると鼻がツンと痛んだ。 意識を集中すれば廊下をゆっくりと移動するアルバの気配。 夢じゃない。 アルバはおれを抱きしめてくれた。 おれのドフィと呼んで、笑いかけてくれた。 それなら。 「……プレゼント」 一カ月前、アルバは誕生日に指輪をくれると言っていた。 指輪。 おれがアルバのものであるという証。 素直に嬉しいと伝えられなかったうえ手まで振り払ってしまったから、きっと薬指には貰えないだろう。 自業自得だとわかっている。 それでも、アルバの束縛を、独占欲を、愛を、ほんの少しでも感じたかった。 口元までかけられていた布団を引きおろしベッドから這い出る。 さっき寝たふりをしていたときにテーブルに何かを置いていたから、プレゼントがあるならそれのはずだ。 アルバに求められたい。 指輪で縛り付けたいと思っていてほしい。 そんな想いを胸に手探りで灯りをつけ一歩一歩テーブルに近づく。 手を伸ばした先、テーブルの上には、 豪華なのにどこか寂しげな、黄色い薔薇の花束があった。 |