「…………アルバ」 「ああ」 「アルバ」 「そうだよ、おれのドフィ」 頬を包む掌のぬくもりと耳を擽る優しい声色におずおずと瞼を開く。 暗闇のなか確かめるように何度も名前を呼ぶとアルバがくすくす笑って、それだけで硬直状態だった全身からスッと力が抜けた。 「随分と寝ぼけて…悪い夢でも見たか?」 「夢……?」 ただ寝たふりをしていただけで記憶ははっきりしているのだから夢だとか寝ぼけているだなんてことはあり得ないのだが、目の前のアルバを見るほど自分がマトモな状態であるという自信がなくなっていく。 それほどまでにいまのアルバは、おれが求めてやまなかった一カ月前までのアルバだ。 もしも寝ぼけているのだとしたら夢はこれまでの一カ月間か、それともこの一瞬か。 わからない。 違う。 どうでもいい。 そんなことはどうでもいいから、今はただおれだけのアルバが欲しかった。 「……アルバ、さみィ」 「こんなところで寝たりするから……あまり心配させないでくれ」 可愛いおれのドフィが風邪をひいたら大変だと眉を寄せたアルバが労わるように手に触れる。 すでに冷え切っている指先にアルバの体温は熱すぎるほどだったが気にせず握りこむとアルバの笑みが深まった。 おれが足りないと思ってる最中に何一人で満足してやがるとムッとする反面その表情に胸の欠落した部分が埋められていく。 嬉しい。 アルバがおれを見て、おれを心配して、おれに求められて、おれを「おれのドフィ」と呼んで幸せそうにしている。 愛されているのだ。 おれは、おれのアルバに。 「ベッドまで運ぶからつかまって」 肩を寄せて示すアルバに素直に従い、その首筋に両腕を巻き付ける。 横抱きにされながら小さく擦り寄ると擽ったそうに体が震えたが、それを叱られることはない。 アルバはおれを甘やかすのが好きだから。 おれが甘えると嬉しそうにするから、だからおれはアルバに、こうして甘えることができる。 「ほらドフィ、降ろすぞ」 「い、ヤだ……布団、冷てェだろ」 「入ればすぐ温もるさ」 まだアルバの腕の中にいたいのに広い部屋とはいえソファからベッドまでの距離なんて知れたもの。 本気でおれを寝かしつけるだけに止まるつもりらしいアルバに遠まわしな誘いの言葉も虚しくシーツの上に降ろされてしまった。 以前なら強引にベッドに引きずり込んだところだが、いまは無理だ。 そんなことをしてまた若と呼ばれ距離をとられたら絶対に耐えられない。 「ゆっくりおやすみ、おれのドフィ」 誕生日おめでとう。 頬に別れのキスを落としたアルバは、それだけ言い残して部屋を出ていった。 |